※この記事にはプロモーションが含まれています。
- インバータの過電流トリップで設備が止まり、表示に「OC」のような文字が出ている
- 先輩に「過電流だね」と言われたけれど、何が起きたのかわからない
- 加速時間を延ばしたのに、また止まる
- 過電流トリップが何をしているのか(家のブレーカーのたとえで)
- 電流が急に増えるのは、どんなときか
- 「いつ止まったか」で原因をしぼる地図と切り分け表
- 加速時間を何秒にすれば止まらないかの計算(式の出どころから)
- 安全に確かめる順番と、直したつもりで再発する思い込み
インバータの過電流トリップは、工場で設備が止まる原因として、とてもよく見かける保護です。ところが、表示は短い英字だけで、何が起きたのかは教えてくれません。
この記事では、過電流トリップを家のブレーカーが落ちる話にたとえて説明します。「なぜ止まるの?」から始めて、最後は「いつ止まったか」から自分で原因をしぼれるところまで、上から順に進みます。
インバータの過電流トリップは、モーターに流れる電流が一瞬で多くなりすぎたとき、インバータが中の部品を守るために自分で止まる保護です。家のブレーカーが落ちるのと同じしくみです。原因は「いつ止まったか」でしぼれます。動かした直後やどの速さでも止まるなら配線やモーターの傷み(短絡・地絡)、速さを上げている途中なら加速時間の短さや負荷の重さ、一定の速さのときなら機械の詰まり、止めている途中なら減速時間や機械ブレーキを先に疑います。
- 三菱電機 FR-A800:E.OC1(加速中)・E.OC2(定速中)・E.OC3(減速中)。出力電流が定格電流の約235%以上で出力を停止
- 安川電機 GA700:oC(過電流)。出力電流が過電流検出レベルを超えると出る
- 三菱電機 FA「FR-A800 異常表示」(E.OC1〜3・E.THT・E.THM・E.GF・ストール防止 OL)
- YASKAWA AC Drive GA700 Technical Manual「oC Overcurrent」(安川電機インド)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。
- そもそも過電流トリップって何?家のブレーカーが落ちるのと同じ
- なぜすぐ止まるの?守っているのは中の「スイッチの部品」
- 電流が急に増えるのはどんなとき?電流は「モーターの力」
- 止まったら最初にやること:安全に止めて「いつ止まったか」を記録
- 「いつ止まったか」で原因をしぼる地図
- 加速中に止まるとき:家電を一度に全部つけた状態
- 加速時間の式はどこから来る?「力=重さ×加速」の回転版
- 計算してみよう:加速時間は何秒あれば止まらない?
- 定速中に止まるとき:掃除機がカーテンを吸い込んだ状態
- 減速中に止まるとき:減速時間と機械ブレーキ
- 配線とモーターを安全に確かめる順番
- 仕事で使うとき1:過電流トリップの切り分け表
- 仕事で使うとき2:配線・周りの機器と、再発させない見直し
- 直したつもりで再発する、よくある思い込み
- よくある質問
- まとめ:過電流トリップは家のブレーカー。いつ止まったかで原因をしぼる
そもそも過電流トリップって何?家のブレーカーが落ちるのと同じ
家で、ドライヤーと電子レンジと電気ポットを同時に使ったら、急に部屋が真っ暗になった。そんな経験はありませんか。これは、家の分電盤にあるブレーカーが「電気の使いすぎ」を見つけて、電気を止めたからです。
ブレーカーは、家の電線が熱くなりすぎて火事にならないように見張っている番人です。決められた量より多くの電気が流れると、パチンとレバーを下げて電気を止めます。ブレーカーが落ちたのは、壊れたからではなく、家を守るために仕事をしたからです。
インバータ(モーターの回る速さを変える装置)の中にも、同じような番人がいます。インバータからモーターへ流れる電気の量、つまり電流が決められた量より多くなると、番人がすぐにモーターへの電気を止めます。
このように、電流が多すぎるときに自分で止まることを過電流トリップと呼びます。表示はメーカーで違い、「OC」(Over Current=過電流の略)のような英字が出る機種がよくあります。
| 家のブレーカーのたとえ | 本物の工場では |
|---|---|
| ブレーカー | インバータの中の保護のしくみ |
| ブレーカーが落ちる | 過電流トリップ(インバータが止まる) |
| 家の電線を守る | インバータの中の部品を守る |
ここはたとえと違うところですが、家のブレーカーより、インバータの番人のほうがずっと短い時間で止まります。その理由は次の段で説明します。

なぜすぐ止まるの?守っているのは中の「スイッチの部品」
インバータの中には、電気を1秒に何千回もオン・オフして、モーターの速さに合った電気を作るスイッチの部品(半導体)が入っています。この部品は電流が多いほど熱くなり、限度を大きく超えると、ほんの一瞬で壊れてしまいます。
家の電線は少し使いすぎたくらいではすぐ燃えないので、家のブレーカーは少し待ってから落ちます。インバータの部品はとても熱に弱い細い電線のようなもので、待っていたら間に合わないため、番人は一瞬で止めます。
インバータには電流を見張る番人が何人かいて、「どれくらい多いか」「どれくらい続いたか」で役割を分けています。過電流トリップは一瞬で大きな電流が流れたときの担当です。
この表の見方:上の行ほど短い時間で働きます。表示の名前・番号と止まるレベルはメーカーで違います(同じ社の古いシリーズの FAQ では約200%)
| 保護(三菱電機 FR-A800 の表示の例) | 何を見ているか | いつ働くか | 家でいうと |
|---|---|---|---|
| 過電流遮断(E.OC1〜3) | 電流の瞬間の大きさ | 定格電流の約235%以上になった瞬間 | 一度に使いすぎて、すぐ落ちる |
| インバータ過負荷遮断(E.THT) | 電流と時間による部品の温度 | 定格以上・過電流の手前の電流が続いたとき(標準の定格では150%・60秒まで耐える) | 少し多めの使い方が長く続いて落ちる |
| モータ過負荷遮断(E.THM) | モーターの温度の見積もり(電子サーマル) | 設定したモーターの定格電流を超える電流が続いたとき | 家電そのものが熱くなって止まる |
| 出力側地絡過電流(E.GF) | 出力側から地面へもれる電流 | 出力側で地絡(電線が地面や金属に触れる)が起きたとき | 漏電ブレーカーが落ちる |
| ストール防止(OL。止まらない) | 電流 | 初期値150%を超えそうなとき、速さを上げるのを一時止めて電流を抑える | 落ちる前に、使う量を自動で減らす |
つまり、過電流トリップは「じわじわ熱くなった」ではなく「一瞬でドンと流れた」ことに反応する保護です。だから原因も、「急に」起きることの中から探します。
- 三菱電機 FR-A800 の異常表示:E.OC1〜3・E.THT・E.THM・E.GF・OL(Pr.22 ストール防止動作レベル 初期値150%)
- 三菱電機 FAQ:E.OC1〜3 は約200%(FR-A200 シリーズ)・主回路素子の過熱でも表示
- 三菱電機 FA「FR-A800 異常表示」(E.OC1〜3・E.THT・E.THM・E.GF・ストール防止 OL)
- 三菱電機 FA の FAQ(E.OC1〜3 は主回路素子の過熱でも表示される。FR-A200 シリーズの質問)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

電流が急に増えるのはどんなとき?電流は「モーターの力」
覚えてほしいことは1つです。モーターに流れる電流は、モーターが出している力にほぼ比例します。
家でも、電気をたくさん食うのは、ドライヤーや電子レンジのようにたくさん仕事をする家電です。モーターも同じで、たくさん力を出すほど、たくさん電流を食います。
モーターが急に大きな力を出すのは、次の4つの場面です。
この表の見方:左の列の場面ごとに、原因を探す場所が変わります
| 場面 | モーターに起きていること | 家でいうと |
|---|---|---|
| 1. 急に速くしようとする | 止まっているものを短い時間で全速まで回すには、大きな力が要る | 家電を一度に全部つける |
| 2. 重いものを動かす | 荷物を持ち上げる・重いロールを回すには、ずっと大きな力が要る | 消費電力の大きい家電を使う |
| 3. 途中で急に重くなる | 箱が詰まる・何かを噛み込むと、急に大きな力が要る | 掃除機がカーテンを吸い込んだ瞬間 |
| 4. 電線やモーターが傷んでいる | 傷んだ所から電気が近道をして、仕事をしない電流が一気に流れる | コードが傷んでショートする |
4つ目だけは種類が違い、電気が本来の道を通らずに近道をした電流です。電線どうしが触れるのを短絡(ショート)、電線が地面や機械の金属に触れるのを地絡と呼びます。直すまで動かしてはいけない原因なので、一番先に確かめます。

止まったら最初にやること:安全に止めて「いつ止まったか」を記録
ブレーカーが落ちたとき、「何を使った瞬間だったっけ?」と思い出しますね。ドライヤーをつけた瞬間なら使いすぎ、何もしていないのに落ちたなら漏電かもしれない。落ちた瞬間に何をしていたかで見当がつきます。
インバータも同じで、「速さを上げている途中(加速中)」「一定の速さの途中(定速中)」「止めている途中(減速中)」「動かした直後」のどれで止まったかで、見る場所が変わります。
この表の見方:上の2行がいちばん大事です。周波数や電流が履歴に残る機種では、リセットの前に控えます
| 記録すること | どこで見るか | 何に使うか |
|---|---|---|
| 表示(異常のコード) | インバータの表示・異常の履歴 | 過電流か、ほかの保護か(③の表) |
| いつ止まったか(加速中・定速中・減速中・動かした直後) | 表示の種類、運転の状態、異常の履歴 | 見る場所を決める(次の段の地図) |
| 止まったときの速さ(出力周波数)と電流 | 異常の履歴のモニタ(残る機種) | 加速の途中か、一定の速さのときか |
| そのとき機械は何をしていたか | 設備の担当・機械の状態 | 詰まり・噛み込みがなかったか |
| 直前に変えたこと(設定・配線・モーター・機械) | 作業の記録 | 最近の変更が原因か |
切り分けの最初に「直前に何を変えたか」を聞きます。パラメータの書き換え・モーターの交換・配線の手直しの直後に出たトリップは、その変更の中に原因があることが多いからです。変えたことが何もないのに急に出始めたなら、配線やモーターの劣化、機械の摩耗のように「時間で変わるもの」を先に疑います。
自社の実情に合わせて書き換えて使ってください。
運転の指令(動け、という信号)を入れたままリセットすると、急に動き出す機種があります(メーカーの研修テキストの注意)。指令が切れていること、まわりに人がいないことを確かめてからリセットします。

「いつ止まったか」で原因をしぼる地図
記録がそろったら、次の4つの道に分かれます。止まったタイミングが一番の手がかりです。
動かした直後・どの速さでも止まる → 配線とモーターを疑う。何もしていないのに落ちる状態。短絡・地絡の疑いがあり、直るまで動かしません(⑭の段)。
速さを上げている途中(加速中)に止まる → 加速時間と負荷の重さを疑う。家電を一度に全部つけた状態(⑦〜⑪の段)。
一定の速さで回っている途中(定速中)に止まる → 機械を疑う。掃除機がカーテンを吸い込んだ状態(⑫の段)。
止めている途中(減速中)に止まる → 減速時間と機械ブレーキを疑う。モーターならではの場面(⑬の段)。
この地図を、動く図で確かめましょう。同じ「加速 → 一定の速さ → 減速」の動きでも、起きることによって電流が跳ねるタイミングが変わり、見る場所も変わります。
動かして確かめる
起きることを選んで「スタート」を押すと、モーターが「加速 → 一定の速さ → 減速」と1回動きます。電流がどの場面で跳ねて止まるかを見て、下の4つの箱のうち、どこを見ればよいかが色で示されます。4つとも試して、止まったタイミングと見る場所の組み合わせを見比べてください。
いまの様子:スタートを押すと、ここに説明が出ます。
動きは説明のための作り物です(速さ・電流・止まる時刻は例。止まるレベルは三菱電機 FR-A800 の例の約235%で、機種で違います)。
見てほしいのは、電流の跳ねる位置です。速さがほとんど0のまま跳ねたら配線、上り坂の途中なら加速時間、平らな所なら機械、下り坂の途中ならブレーキ、と読めるようになれば、この地図は使いこなせています。
1つ目の疑いがあるときにリセットして何度も動かし直すと、傷みを広げるおそれがあります。まず1つ目を確かめます。

加速中に止まるとき:家電を一度に全部つけた状態
インバータには、モーターを止まった状態から全速まで、何秒かけて速くするかの設定があります。これを加速時間と呼びます。この時間が短すぎると、加速中に過電流トリップが起きやすくなります。
ドライヤー・電子レンジ・電気ポット・トースターを同じ瞬間に全部つけるとブレーカーは落ちます。でも、1つずつ順番につけていけば、同じ家電を全部使っても落ちないことがあります。加速時間を延ばすのは、この「順番につける」と同じで、一度に流れる電流のピーク(いちばん高い所)を下げることです。
ここはたとえと少し違い、モーターでは「同時に使う数」ではなく「力を出す時間」を長くして、一度に要る力を小さくします。
加速中に止まるときに確かめることは、次のとおりです。
- 加速時間の設定は短すぎないか。延ばしても機械の動きの速さ(タクト)が守れるかを、機械の担当と決めます
- S字加減速(上げ始めと終わりをなめらかにする設定)で、ピークの電流を下げられることがあります
- 低い速さで止まるなら、モーターの銘板(仕様の書かれた板)と設定が合っているかを見ます。50Hz のモーターなのに基底周波数を60Hz にしていた例が、メーカーの資料に原因として挙がっています
- 加速時間を延ばしても止まるなら、インバータの容量が足りないことがあります
では、加速時間は何秒あれば足りるのでしょう。勘で延ばすと、延ばしすぎたり足りなかったりします。次の段から計算で当たりをつけます。

加速時間の式はどこから来る?「力=重さ×加速」の回転版
ここで計算するのは、「加速時間を何秒より短くすると電流が限度を超えるか」を知るためです。理科の式から1段ずつ組み立てます。
出発点:まっすぐ動くものは「力=質量×加速度」
止まっている台車を押して動かすとき、重い台車ほど、そして早く速くしたいほど、強く押す必要があります。これを式にしたのが、理科で習う力=質量×加速度です(ニュートンの運動の法則)。加速度は「1秒あたりに速さがどれだけ増えるか」です。
F = m × a (力 = 質量 × 加速度)
回るものの場合:「トルク=慣性モーメント×角加速度」
モーターは、まっすぐではなく回るものを動かします。回るものにも、まったく同じ形の式があります。言葉を回る版に置き換えるだけです。
この表の見方:左の列の言葉を、右の列の言葉に置き換えると回る版の式になります
| まっすぐ動くもの | 回るもの | 意味 |
|---|---|---|
| 力 F(N=ニュートン) | トルク T(N·m=ニュートンメートル) | 回す力の強さ |
| 質量 m(kg) | 慣性モーメント J(kg·m²) | 回しにくさ。重いほど、外側に重さがあるほど大きい |
| 加速度 a(m/s²) | 角加速度 α(rad/s²) | 1秒あたりに回る速さがどれだけ増えるか |
T = J × α (トルク = 慣性モーメント × 角加速度)
公園の回転遊具(メリーゴーラウンド)に重い砂袋を載せたところを想像してください。一瞬で速く回そうとすると、全身の力で押さないと回りません。でも、時間をかけてゆっくり回し始めれば、片手で軽く押すだけで同じ速さまで回せます。砂袋が重いほど、外側に置くほど、押す力はもっと要ります。これが T = J × α の中身です。

角加速度を「速さの変化÷時間」に直す
角加速度 α は増やした速さ ÷ かかった時間で出せます。ただし、モーターの速さは「1分間に何回転するか」(r/min)で書かれているので、式で使える形(rad/s)に直します。
- 1回転は、角度でいうと 2π rad(ラジアン。円を1周する角度の単位。2π はおよそ 6.28)
- 1分は60秒なので、1分に n 回転する速さは、1秒あたり 2π × n ÷ 60 rad。これを角速度 ω(オメガ)と呼びます
α = (2π × Δn ÷ 60) ÷ t (Δn は増やす回転の速さ r/min、t は加速時間 s)
加速時間 t について解く
T = J × α に、いまの α を入れて、t について解くと、加速時間の式ができます。ここで T は、モーターが出せる力のうち加速に回せる分です。機械を動かし続けるだけでも力(負荷トルク)が要るので、その分を引いた残りしか加速には使えません。
t = J × 2π × Δn ÷ (60 × T_a) (T_a = 使えるトルク − 負荷トルク)
式の形を言葉にすると、「回しにくい(J が大きい)ほど、速さを大きく変えるほど、時間は長く要る」「使える力(T_a)が大きいほど、時間は短くてすむ」です。メリーゴーラウンドの感覚とぴったり合います。
使えるトルクは、電流の限度から出す
最後に「使えるトルク」を出します。銘板には kW(パワー)と回転の速さが書かれているので、まずパワーからトルクを出します。電気の「電力=電圧×電流」にあたる回るものの式はパワー=トルク×角速度です。
P = T × ω → T = P ÷ ω = 60 × P ÷ (2π × n)
P を kW で入れるときは1,000倍して W に直すので、60 × 1,000 ÷ 2π ≒ 9,549 となり、よく見る形 T = 9,550 × P[kW] ÷ n(丸めた値)になります。これがモーターの定格トルク(ふだん出す力)です。そのうえで、④の「電流は力にほぼ比例する」を使い、インバータが流せる電流の限度から、使えるトルクを見積もります。

計算してみよう:加速時間は何秒あれば止まらない?
ここまでの式を、架空のモーターで使ってみます(数値はすべて例)。記号と単位を先にまとめます。
この表の見方:I_lim の150%は、電流を抑え始めるレベル(ストール防止の初期値)と、標準の定格で60秒耐えられる電流に合わせた例です
| 記号 | 意味 | 単位 | 例の値 |
|---|---|---|---|
| P | モーターのパワー(銘板) | kW | 3.7 |
| n | モーターの回る速さ(銘板の定格回転) | r/min | 1,750 |
| I_M | モーターの定格電流(銘板) | A | 15.0 |
| I_lim | 加速中に流してよい電流の目安(インバータの定格 16.6 A × 150%) | A | 24.9 |
| T_L | 機械を動かし続けるのに要るトルク(負荷トルク) | N·m | 12.0 |
| J | モーターの軸から見た回しにくさ(機械の分も含む) | kg·m² | 0.10 |
T_M = 9,550 × 3.7 ÷ 1,750 = 20.2 N·m
I_lim = 16.6 A × 1.50 = 24.9 A
T = 20.2 N·m × 24.9 A ÷ 15.0 A = 33.5 N·m
T_a = 33.5 − 12.0 = 21.5 N·m
2π × 1,750 ÷ 60 = 6.283 × 29.17 = 183.3 rad/s
t = 0.10 × 183.3 ÷ 21.5 = 18.33 ÷ 21.5 = 0.85 s
kg·m² × rad/s ÷ N·m = kg·m²/s ÷ (kg·m²/s²) = s(秒)になる
つまり、このモーターと機械なら「0.85秒より短い加速時間は無理がある」ということです。答えが0.01秒や100秒のように極端なら、単位(特に J の桁)を見直します。
この計算の意味を、動く図で確かめましょう。加速時間を選ぶと、同じモーターと機械で、速さと電流が時間とともにどう変わるかが見られます。
動かして確かめる
加速時間を選んで「スタート」を押すと、計算例1のモーター(慣性 0.10 kg·m²・負荷トルク 12 N·m)が 0 から 1,750 r/min まで速くなります。上のグラフが速さ、下のグラフが電流です。加速時間を短くしたり長くしたりして、電流の山の高さと、赤い線(止まるレベル 約235%)の関係を見てください。
いまの様子:スタートを押すと、ここに説明が出ます。
動きは説明のための作り物です(数値は計算例1と同じ例。電流は「電流と力は比例」と見なした目安で、ストール防止で抑える動きは描いていません。止まるレベルは機種で違います)。
見てほしいのは、加速時間を短くするほど電流の山が高くなり、0.4 秒では約259%で赤い線を超えて止まる一方、1.2 秒では約122%に収まるところです。計算例1の「下限 0.85 秒」は、山がちょうど150%になる長さです。
この計算は、電流と力の比例を仮定した目安です。モーターの電流には磁石の働きを作る電流(励磁電流)も含まれるので、実際は少しずれます。最後は試運転でインバータの電流の表示を見て決めます。

計算例2:機械を重いものに替えたのに、加速時間はそのまま
同じモーターで、機械を重いロールに替え、回しにくさ J が3倍の 0.30 kg·m² になったとします。加速時間の設定は前のまま 1.0 秒です。何が起きるでしょう。
t = 0.30 × 183.3 ÷ 21.5 = 55.0 ÷ 21.5 = 2.56 s
1.0 s < 2.56 s → 短すぎる
T_a = 0.30 × 183.3 ÷ 1.0 = 55.0 N·m
55.0 + 12.0 = 67.0 N·m
15.0 A × 67.0 ÷ 20.2 = 49.8 A
49.8 ÷ 16.6 = 3.00 → 約300%
16.6 A × 2.35 = 39.0 A < 49.8 A → 超える
比べるために、元の機械(J=0.10)で同じ 1.0 秒の計算をすると、要る電流は 22.5 A(定格の約136%)で、150%の目安の中に収まります。同じ設定でも、機械が変わると止まるようになるということです。
「電流を抑える機能(ストール防止)があれば止まらないのでは?」と思った方へ。抑えている間は加速が遅れてタクトが守れず、電流の増え方が急すぎると抑えきれずに止まることもあります。メーカーの資料にも、ストール防止の動作レベルが高すぎることが原因の例として挙がっています。

定速中に止まるとき:掃除機がカーテンを吸い込んだ状態
掃除機をかけていて、カーテンのすそを吸い込んだ瞬間、モーターがうなって止まりそうになることがあります。急に重くなって、モーターが大きな力を出そうとしたからです。定速中の過電流は、これと同じことが工場の機械で起きています。
一定の速さのときは、加速時間はもう関係ありません。詰まり・噛み込み、軸受(軸を支える部品)の傷み、ブレーキの引きずりで、急に重くなったときに止まります。
定速中のトリップで最初にやるのは、機械を手で回せるか・負荷を外して回したときの電流が普段と同じかを見ることです。ここで普段より重ければ機械の側、普段どおりならモーター・配線・インバータの側に絞れます。普段の電流を知らないと比べられないので、試運転のときに定速中の電流を記録しておくと、あとの切り分けが速くなります。
出たり出なかったりする場合は、止まったときの機械の状態の記録を集めると、「重い品物のときだけ」のように条件がそろっていることがあります。

減速中に止まるとき:減速時間と機械ブレーキ
ここは家の電気にはない、モーターならではの場面です。たとえるなら、走っている車で、まだ速さが残っているのにサイドブレーキを引くようなものです。インバータがまだモーターを回す電気を出しているのに、機械のブレーキで軸を無理やり止めると、モーターは大きな力で逆らおうとして、電流が一気に増えます。
- 減速時間の設定が短すぎないか(実際に止まるまでの時間と比べます)
- ブレーキ付きのモーターでは、ブレーキを掛ける信号がいつ出ているか。速さが十分に下がってから掛けるのが基本です。メーカーの資料にも、機械ブレーキの動作が早すぎることが原因の例として挙がっています
- 表示が過電流か過電圧か。減速中はモーターが発電機のようになって電気が戻り(回生)、中の電圧が上がって止まる「過電圧」もよく出ます。対策が違うので表示を確かめます
減速中の過電圧の対策(減速時間・ブレーキ抵抗など)は、回生の記事で説明します(公開しだい、ここにリンクします)。

配線とモーターを安全に確かめる順番
インバータの中には、電源を切ったあとも電気がしばらく残ります。次の順番で進めれば安全に確かめられます。作業してよいか・誰がやるかは、社内のルールと取扱説明書の保守・点検の章に従ってください。
家でコンセントまわりを触る前にブレーカーを落とすのと同じです。インバータでは「中のタンク(コンデンサ)に残った電気が抜けるのを待つ」手順が1つ増えます。
電源を切り、ほかの人が入れられないようにする。主回路(モーターを回す電気の回路)の電源を切り、札と鍵で入れられないようにします。
中に電気が残っていないことを確かめる。表示や充電ランプが消えたこと、インバータの直流の端子の間の電圧が下がったことをテスターで確かめます。待つ時間は取扱説明書の値に従います(三菱電機の研修テキストの例では、電源を切ってから10分以上)。
インバータの出力端子からモーターの配線を外す。次の測定の電圧を、インバータにかけないためです。
モーターの側で、配線とモーターの絶縁抵抗を測る。絶縁抵抗計(電気がもれていないかを測る道具)で、相の間と、各相と接地の間を測ります。低ければ配線とモーターを切り離してしぼります。
異常がなければ、モーターを外したままインバータだけで動かしてみる。それでも止まるならインバータ側の故障を疑い、メーカーか販売店に相談します(できる条件は取扱説明書で確かめます)。
絶縁抵抗計を、インバータの端子に当てないでください。メーカーの資料でも、制御回路に絶縁抵抗の測定をしないよう注意があります。測るのはモーターと配線の側だけです。
絶縁抵抗の値をどう判断するかは、低圧の電路の決まり(電気設備技術基準)が目安になります。同じ筆者が運営する電気のブログ shirasusolo.net の電路の絶縁性能の解説にまとめています。

STEP 4 で、モーターと配線の側の絶縁抵抗を測る道具の例です。日置電機の絶縁抵抗計 IR4051-10 は、販売ページの表示では JIS C 1302:2018 に適合した5レンジ(DC50V・125V・250V・500V・1000V)の絶縁抵抗計で、活線警告と、測ったあとの自動放電の機能があります。どの電圧で測るかは、測る回路の使用電圧と、モーター・機器の取扱説明書で確かめてください。
仕事で使うとき1:過電流トリップの切り分け表
この表の見方:上の行から順に確かめます。1行目(短絡・地絡)が否定できるまで、2行目以下の設定は触りません
| 症状・いつ出るか | まず疑う原因 | 確かめる場所・測るもの | 直し方 |
|---|---|---|---|
| 動かした直後・どの速さでも出る | 出力側の短絡・地絡(配線の傷み、モーターの絶縁の劣化) | 電源を切り、配線とモーターの絶縁抵抗を測る(⑭の順番) | 傷んだ配線・モーターを直す。直るまで運転しない |
| 加速中 | 加速時間が短い、負荷が重い、慣性が大きい | 加速時間の設定、加速中の電流の表示 | 加速時間を延ばす、S字加減速、容量の見直し |
| 加速中(低い速さで出る) | 基底周波数とモーターの定格周波数の違い、トルクブースト(低速の電圧の上乗せ)が高すぎる | 基底周波数・V/f の設定とモーターの銘板 | 銘板に合わせて設定を直す |
| 定速中 | 機械の負荷の急変(詰まり・噛み込み・ブレーキの引きずり) | そのときの機械の状態、負荷を外して回したときの電流 | 機械の原因を直す。急変が避けられないなら容量を見直す |
| 減速中 | 減速時間が短い、機械ブレーキが早く掛かる | 減速時間の設定、ブレーキの掛かるタイミング | 減速時間を延ばす、ブレーキのタイミングを直す |
| 運転中に出力側の電磁接触器が開閉した直後 | インバータが電圧を出している最中の開閉 | 電磁接触器を開閉する条件(シーケンス) | 出力中は開閉しないようにする |
| 回っているモーターに運転指令を出した直後 | 空回りしているモーターに、止まっている前提で電圧を出した | 止め方(フリーラン)、再始動のタイミング | 止まるのを待つか、速度サーチ(回転を探して引き込む機能)を使う |
メーカーで違う:表示の分け方
考え方はどの社も同じですが、表示の分け方は違います。公式の資料で確かめた2社を並べます。
この表の見方:ほかの社は、お使いの機種の取扱説明書の「保護機能」「異常表示」の章で確かめてください
| メーカー・シリーズ | 過電流の表示 | いつ止まったかの見分け方 | 関係する設定の例 |
|---|---|---|---|
| 三菱電機 FR-A800 | E.OC1(加速中)・E.OC2(定速中)・E.OC3(減速中) | 表示の番号で分かれる | Pr.3 基底周波数・Pr.22 ストール防止動作レベル |
| 安川電機 GA700 | oC(1つ) | 止まったときの運転状態を記録して見分ける | C1-01 など加速時間・C2-01〜04 S字・C6-02 キャリア周波数・b3-01 速度サーチ |
- 三菱電機 FA「FR-A800 異常表示」(E.OC1〜3・E.THT・E.THM・E.GF・ストール防止 OL)
- YASKAWA AC Drive GA700 Technical Manual「oC Overcurrent」(安川電機インド)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。
仕事で使うとき2:配線・周りの機器と、再発させない見直し
この表の見方:上から順に、改造・増設の記録と見比べて確かめます
| 原因 | なぜ過電流になるか | 確かめる場所・直し方 |
|---|---|---|
| 出力側の電磁接触器の開閉 | 電圧を出している最中に開閉すると、大きな電流が一気に流れる | インバータの出力を止めてから開閉するよう見直す |
| 出力側の進相コンデンサ・サージキラー・ノイズフィルタ | インバータの出力側には付けないよう注意がある機器。過熱・焼損のおそれ(三菱電機の研修テキスト) | 付いていたら外す。付けてよい機器は取扱説明書の周辺機器の章で確かめる |
| モーターまでの配線が長い | 電線と地面のあいだを通る電流が増える | キャリア周波数を下げる、容量を上げる(安川電機の資料の対策) |
配線や周辺機器が原因のときは、「最初からずっと出ていた」か「途中から出始めた」かで分けます。最初から出ていたなら、設計や施工のときの機器の選び方・つなぎ方を疑います。途中から出始めたなら、あとから足された機器や、手直しされた配線を疑います。どちらかで、見る図面と聞く相手が変わるからです。
再発させないための見直し
再発の防止は、「設定で逃げる」前に「選定が足りていたか」を確かめ直すことから始めます。加速時間を延ばして止まらなくなっても、タクトが守れなければ別の問題になります。計算例1・2のように加速時間の下限を見積もり、タクトと両立しないなら、容量か定格を見直すほうが、あとで何度も呼ばれずに済みます。
- □ 加速時の電流が、インバータが耐えられる量に入るか、選定の計算を確かめ直した
- □ 加速・減速時間とS字加減速を、機械の慣性とタクトから決め直した
- □ 基底周波数・トルクブーストをモーターの銘板と合わせた
- □ 出力側の電磁接触器が、出力中に開閉しないようにした
- □ モーターと配線の絶縁抵抗を、定期点検の項目に入れた
- □ 定速中の普段の電流を記録し、比べられるようにした
- 出力側に付けない機器:三菱電機 はじめてのインバータ PART2
- 電磁接触器・長い配線・速度サーチ:安川電機 GA700 の oC
- 三菱電機 サテライト研修テキスト「はじめてのインバータ PART2」(FR-E700 実習機。安全上の注意・保護機能の一覧)
- YASKAWA AC Drive GA700 Technical Manual「oC Overcurrent」(安川電機インド)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。
直したつもりで再発する、よくある思い込み
ブレーカーを上げて電気がついても、原因の家電をそのまま使えばまた落ちます。過電流トリップも同じです。
この表の見方:左の列に心当たりがあれば、右の列を先にやります
| 思い込み | 残る原因 | どうするか |
|---|---|---|
| 加速時間を延ばしたから直った | 減速中・定速中に出ていた別の原因 | 記録で、いつ止まっていたかを確かめ直す |
| リセットで動いたから大丈夫 | 絶縁の劣化が進んでいる | ⑭の順番で一度は絶縁抵抗を測る |
| インバータが壊れたから交換 | 出力側の短絡・地絡が残っている | 交換の前に配線とモーターを確かめる(新しいインバータも同じ原因で止まる) |
| 電流を抑える機能があるから止まらないはず | 動作レベルが高すぎて間に合わない | メーカーの資料どおり、動作レベルを見直す |
| 過負荷も過電流も同じ | じわじわの原因と、一瞬の原因を取り違える | ③の表で、表示がどちらの保護かを確かめる |
インバータの中で電流がどう流れるか(整流・平滑・PWM)のしくみは、同じ筆者の shirasusolo.net のインバーターとはで図解しています。
よくある質問
まとめ:過電流トリップは家のブレーカー。いつ止まったかで原因をしぼる
- 過電流トリップは、電流が一瞬で多くなりすぎたとき、インバータが中の部品を守るために自分で止まる保護。家のブレーカーと同じ
- 電流はモーターの力にほぼ比例する。急に速く・重い・急に詰まる・配線の傷み、の4つの場面で増える
- リセットの前に、表示・いつ止まったか・速さと電流・機械の状態・直前の変更を記録する
- 動かした直後なら配線とモーター、加速中なら加速時間、定速中なら機械、減速中ならブレーキ
- 加速時間の下限は「トルク=慣性×角加速度」から計算できる。機械が重くなったら設定も見直す
- 配線を確かめるときは、電源を切って電気が残っていないことを確かめ、モーター側だけを測る
減速中に過電圧が出る場合は、回生の対策が必要です。
PLC・サーボ・インバーターを実務で扱ってきた電気・制御の設計者です。制御の記事は、選び方・設定の順番・止まったときの切り分けを、実務の判断のしかたから書いています。機械(材料・機械要素・図面)の記事は本職ではないため、JIS とメーカーの技術資料を調べてまとめ、出典を示しています。
次に読むべき記事
過電流の切り分けができたら、インバータの選び方(耐えられる電流の読み方)と、減速中の過電圧(回生)も確かめておきましょう(記事は公開しだい、ここに並べます)。


