インバータの選定をやさしく図解|kWより電流で選ぶ5つの手順

インバータはモーターのアクセル。アクセルを踏む足とモーターのイラスト インバーター

※この記事にはプロモーションが含まれています。

お悩み
こんなふうに思っていませんか?
  • インバータの選定を任されたけれど、そもそもインバータが何をする機械なのかよくわからない
  • カタログに kW・A・%・秒…と数字が並んでいて、どれを見ればいいのかわからない
  • 「モーターと同じ kW じゃダメだよ」と言われたけれど、理由が聞けなかった
この記事でわかること
  • インバータが何をする機械なのか(車のアクセルのたとえで)
  • 工場でインバータを使う3つの理由
  • 選ぶときに見る3つの数字(電流・がんばれる量・モード)の意味
  • インバータの選定の5つの手順と、途中式つきの計算例
  • メーカーの資料の読み方と、よくある失敗

インバータの選定は、工場の電気の仕事で最初のころに任されやすい作業です。ところが、カタログを開くと専門用語と数字がずらりと並び、「何を基準に選べばいいの?」で手が止まります。

この記事では、インバータを車のアクセルにたとえて、最初から最後まで車の話で説明します。「インバータって何?」から始めて、最後は自分でカタログを読んで1台選べるところまで、1段ずつ進みます。前の段がわかれば次の段が読めるように並べたので、上から順に読んでください。

結論|まず30秒でわかる答え

インバータは、モーターの回る速さを自由に変える「アクセル」の役目をする機械です。インバータの選定では、モーターの kW(パワーの大きさ)ではなく、モーターの銘板に書かれた定格電流(ふだん流れる電気の量)を見て、それ以上の電流を流せる機種を選びます。そのうえで、動き出しのときに一時的に増える電流が、インバータが短い時間だけ耐えられる量(たとえば定格の150%を60秒)に収まるかを確かめれば合格です。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

  1. そもそもインバータって何?モーターの「アクセル」です
    1. 家のエアコンの「インバーター」と同じしくみです
  2. なぜ工場でインバータを使うの?3つの理由
    1. 理由1:ゆっくり動き出せる(急発進しない)
    2. 理由2:機械に合った速さで回せる
    3. 理由3:ファンやポンプの電気代が減る
  3. インバータの中では何が起きている?(ざっくり3段階)
  4. 選ぶときに見る数字1:kW より「電流」
    1. 電流の式はどこから来たの?(kW と A をつなぐ式)
      1. 1. 何のために計算する?
      2. 2. 式の出どころ:電力=電圧×電流から組み立てる
      3. 3. 記号と単位
    2. 数字を入れて確かめる:同じ 3.7kW でも電流が違う
      1. 4. 答えの意味と、桁の確かめ方
  5. 選ぶときに見る数字2:短い時間なら「がんばれる量」
    1. なぜ「150%なら60秒、200%なら3秒」なの?
  6. 選ぶときに見る数字3:同じ1台でも「モード」で変わる
  7. インバータの選定は5つの手順で進める
  8. 計算してみよう:コンベアのモーターに合うインバータは?
      1. 1. 何のために計算する?
      2. 2. 式の出どころ:「%」を「倍」に直すだけ
      3. 3. 記号と単位
      4. 4. 数字を入れて解く
      5. 5. 答えの意味と、桁の確かめ方
    1. 続き:同じモーターで、荷物を持ち上げる昇降機なら?
  9. 仕事で使うとき1:カタログのモードの欄を正しく読む
    1. メーカーで違う:モードの名前とがんばれる量
  10. 仕事で使うとき2:暑い場所・高い場所と、モーターの側の確認
    1. モーターの側も確かめる
    2. 計算してみよう:高い場所では、流せる電流はいくつ下がる?
      1. 1. 何のために計算する?
      2. 2. 式の出どころ:メーカーの資料で決められた「下げ方」
      3. 3. 記号と単位
      4. 4. 数字を入れて解く
      5. 5. 答えの意味と、桁の確かめ方
  11. インバータの選定でよくある失敗と、迷ったときの決め方
    1. 迷ったら何を優先するか
    2. 選んだあとにやること
  12. よくある質問
  13. まとめ:インバータはモーターのアクセル。電流で選び、がんばれる量で確かめる
    1. 次に読むべき記事

そもそもインバータって何?モーターの「アクセル」です

ひとことで言うとインバータは、モーターの回る速さを自由に変えるための「アクセル」です。

工場の機械の多くは、モーターで動いています。ベルトコンベア、換気のファン、水を送るポンプ、荷物を持ち上げる昇降機。どれも中ではモーターがぐるぐる回っています。

ところが、モーターを電源(コンセントの先の電気)に直接つなぐと、できることは「全速で回す」か「止める」かの2つだけです。電源の電気は、東日本なら1秒に50回、西日本なら60回と、波の速さが決まっているからです。モーターは、この波の速さに合わせた決まった速さで回ります。

たとえると

インバータのない機械は、「全開」か「停止」しかない車のようなものです。走り出すときはいきなり全開、止まるときはエンジンを切るだけ。これでは、ゆっくり走ることも、なめらかに止まることもできません。そこで登場するのがインバータです。インバータは、モーターにとってのアクセルです。少し踏めばゆっくり、深く踏めば速く回ります。

インバータは、電源の電気を受け取って、波の速さ(周波数)を好きな値に作り直してからモーターに送ります。波をゆっくりにすればモーターはゆっくり、速くすれば速く回ります。つまり、インバータ=モーターの速さを変える装置ということです。

アクセルを踏むと何が起きるのかを、動く図で確かめてみましょう。インバータが作る波の速さと、モーターの回る速さが、いっしょに変わる様子がわかります。

動かして確かめる

下の「アクセル」のつまみを左右に動かしてください。インバータが作る電気の波の速さ(周波数)が変わり、それに合わせてモーターとコンベアの速さが変わります。

インバータ (モーターの アクセル) 電源の電気を受けて インバータが作って送る電気の波 枠の中=0.1秒ぶん。山の数が多いほど速い波 モーター 1分に約900回転 モーターが回すコンベア コンベアの速さは、モーターの回る速さに比例します

いまの様子:つまみを動かすと、ここに説明が出ます。

動きは説明のための作り物です(波とモーターは目で追える速さまでゆっくりにしています。回転数は4極モーターの例で、実際は少し遅く回ります。インバータは周波数と一緒に電圧も変えますが、この図では省いています)。

見てほしいのは、つまみを右へ動かすほど枠の中の波の山がふえ、モーターとコンベアが速くなるところです。50Hz と 60Hz のボタンは、電源に直接つないだときの速さで、インバータがなければこの速さか停止しか選べません。

家のエアコンの「インバーター」と同じしくみです

「インバーターエアコン」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。あのインバーターも同じものです。エアコンの中には、冷たい空気を作るための圧縮機があり、それをモーターが回しています。

インバーターのないエアコンは、部屋が冷えたら止まり、暑くなったらまた全力で動く、をくり返します。インバーターのあるエアコンは、モーターの速さを細かく変えて、ちょうどよい力で回り続けます。工場のインバータがやっていることも、これと同じです。

車のたとえ本物の工場では
アクセルペダルインバータ
エンジンとタイヤモーター
車の速さモーターの回る速さ
ガソリン電気(電流)

ここはたとえと違うところですが、車のアクセルは燃料の量を変え、インバータは電気の波の速さ(と電圧)を変えます。「速さを自由に変えるための装置」という役目は同じだと思ってください。

インバータはモーターのアクセルであることを車のアクセルと並べて示したイラスト

なぜ工場でインバータを使うの?3つの理由

ひとことで言うと「ゆっくり動き出せる」「速さを変えられる」「電気代が減る」の3つのためです。

理由1:ゆっくり動き出せる(急発進しない)

インバータなしでモーターを動かすと、スイッチを入れた瞬間に全速まで一気に回ろうとします。コンベアに載った荷物は倒れ、機械にはガツンと衝撃がかかります。動き出しの瞬間には、ふだんの数倍の電流が流れることもあります。

たとえると

車で、信号が青になった瞬間にアクセルをベタ踏みすると、助手席のコーヒーがこぼれます。じわっと踏めばこぼれません。インバータは、この「じわっと踏む」を毎回同じようにやってくれます。何秒かけて全速まで上げるかを、インバータの設定で決められます。

理由2:機械に合った速さで回せる

同じコンベアでも、運ぶ品物によって流したい速さは変わります。インバータがあれば、モーターや歯車を取り替えなくても、設定やつまみで速さを変えられます。

理由3:ファンやポンプの電気代が減る

ファンやポンプで風や水の量を減らしたいとき、インバータがないと、全速で回しながら途中の弁やダンパー(風の通り道のふた)を絞ります。これは、アクセルを全開にしたままブレーキを踏んで速さを落とす運転と同じで、電気がむだになります。

インバータでモーターそのものの速さを落とすと、むだがなくなります。ファンやポンプは、回る速さを少し下げるだけで電気が大きく減る性質があります。ざっくり言うと、電力は速さの3乗に比例するので、理屈の上では速さを8割にすると電力は約5割(0.8×0.8×0.8=0.512)になります。

つまり、インバータは「荷物と機械にやさしく」「速さを自由に」「電気代を安く」するための装置です。ここまでわかれば、次は中で何が起きているかを少しだけのぞいてみましょう。

インバータがないと急発進で荷物が倒れ、インバータがあるとゆっくり動き出すことを比べたイラスト

インバータの中では何が起きている?(ざっくり3段階)

ひとことで言うと電気をいったん「まっすぐな電気」にならしてから、好きな速さの波に作り直しています。

選び方の話に入る前に、インバータの中を少しだけのぞきます。ここがわかると、「なぜ電流で選ぶのか」がすっと入ってきます。

STEP 1

電源の波をならす。コンセントの先から来る電気は、決まった速さで向きが入れかわる波(交流)です。インバータは、まずこれを向きの変わらないまっすぐな電気(直流)に変えます。

STEP 2

まっすぐな電気をためる。中の大きな部品(コンデンサ)に電気をため、でこぼこをならします。ダムに水をためておくイメージです。

STEP 3

好きな速さの波に作り直す。ためた電気を、小さなスイッチの部品(半導体)で1秒に何千回もオン・オフして、好きな速さの波を作ります。これがモーターに送られます。

たとえると

料理にたとえると、STEP1・2は「買ってきた材料を下ごしらえして冷蔵庫に入れておく」、STEP3は「注文に合わせて好きな量・好きな味で作って出す」です。注文(速さの指示)が変わっても、冷蔵庫の材料からすぐに作り直せます。

ここで大事なのは、STEP3 のスイッチの部品(半導体)は、流れる電流が多いほど熱くなるということです。熱くなりすぎると壊れてしまうので、インバータは自分の中を流れる電流をいつも見張っていて、限度を超えそうになると自分で止まって身を守ります。

つまり、インバータにとって一番大事な数字は「どれだけの電流を流せるか」です。これが、次の段の「kW より電流で選ぶ」の理由につながります。

回路のしくみ(整流・平滑・PWM)をもっと詳しく知りたい方は、同じ筆者が運営する電気のブログ shirasusolo.net のインバーターとはで図解しています。この記事では「選ぶ」ために要るところだけに絞ります。

インバータの中で電気を直流にしてから好きな速さの交流に作り直す流れ
おすすめの本

インバーターの中のしくみや種類を、もう一歩くわしく知りたいときの本の例です。オーム社の『「インバーター、マジわからん」と思ったときに読む本』(森本雅之 著・2026年2月発行)です。インバーターの原理と種類、内部のしくみ、インバーターでモーターを回す話、電源としての使い方までの6章でできています(楽天ブックスの目次)。

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選ぶときに見る数字1:kW より「電流」

ひとことで言うとインバータは、モーターの kW ではなく、モーターの銘板に書かれた「定格電流」で選びます。

モーターの側面には、銘板という金属の板が貼ってあり、そのモーターの大事な数字が書かれています。よく目につくのは「3.7kW」のような kW の数字です。これはモーターが出せるパワーの大きさで、車でいえばエンジンの馬力です。

銘板には、もう1つ「15.0A」のような A(アンペア)の数字があります。これは、そのモーターがふつうに働いているときに流れる電気の量です。この数字を定格電流と呼びます。

たとえると

同じ馬力の車でも、燃費のよい車と悪い車があり、使うガソリンの量は違います。モーターも同じで、同じ 3.7kW でも、作りによって流れる電流(=飲むガソリンの量)が違います。インバータは、アクセルであると同時に、モーターにガソリンを送るポンプでもあります。ポンプが送れる量には限度があるので、カタログの馬力ではなく、実際に飲む量(定格電流)に合わせて選ぶのです。

インバータの側にも「この電流まではずっと流せます」という数字があり、これを定格出力電流と呼びます。選ぶときの基本は、とてもシンプルです。

インバータの定格出力電流 ≧ モーターの定格電流

「ポンプが送れる量 ≧ 車が飲む量」なら、ガス欠になりません。インバータの選定の土台は、この1行だけです。

同じ大きさの車でも飲むガソリンの量が違うように、同じkWのモーターでも電流が違うことを示すイラスト

電流の式はどこから来たの?(kW と A をつなぐ式)

「でも、kW が同じなら電流もだいたい同じでは?」と思った方へ。それを確かめるために、kW から電流を出す式を、電気のいちばん基本の式から1段ずつ組み立ててみます。

1. 何のために計算する?

モーターがどれだけ電流を飲むかを、kW から見積もるためです。これがわかると、「kW が同じでも電流が違うことがある」理由が見え、kW の欄だけで選ぶ危なさがわかります。

2. 式の出どころ:電力=電圧×電流から組み立てる

電気のパワー(電力)は、電圧×電流で決まります。水道にたとえると、電圧は水を押す強さ(水圧)、電流は流れる水の量で、「強く押して、たくさん流す」ほど大きな仕事ができます。ここから4段で組み立てます。

STEP 1

基本の式:電力 = 電圧 × 電流。乾電池や家のコンセントのような、電線2本の電気ならこれで終わりです。式で書くと P = V × I です。

STEP 2

工場の電気は3本の線(三相)。工場のモーターは、3本の電線で電気を送る「三相」で動きます。3本の電気の波は少しずつずれて届くので、3本ぶんを合わせると、線と線のあいだの電圧 V を使って P = √3 × V × I になります(√3 は約1.73)。ざっくり言うと「3本で送るぶん、2本のときより約1.73倍のパワーを運べる」ということです。

STEP 3

流れた電流の全部が仕事をするわけではない(力率)。モーターに流れる電流の一部は、モーターの中に磁石の力を作るために行ったり来たりするだけで、回す仕事にはなりません。仕事に使われる割合を力率(記号 cosφ。コサインファイと読む)と呼び、仕事になる電力は √3 × V × I × cosφ です。

STEP 4

入れた電力の全部が回す力になるわけではない(効率)。モーターの中では、電線の熱や摩擦で少し電力が逃げます。入れた電力のうち、回す力になった割合を効率(記号 η。イータと読む)と呼びます。銘板の kW は「回す力として出てくるパワー」なので、出力 P = √3 × V × I × cosφ × η です。

最後に、知りたいのは電流 I なので、両辺を √3 × V × cosφ × η で割って、I だけを左に残します。

POINT

I = P ÷ (√3 × V × η × cosφ)
電流 = 出力 ÷ (1.73 × 電圧 × 効率 × 力率)

3. 記号と単位

この表の見方:η と cosφ は割合なので単位がありません。W を V で割ると A になるので、答えの単位は A でそろいます

記号意味単位
Iモーターに流れる電流(ここで知りたいもの)A(アンペア)
Pモーターの出力(銘板の kW)。計算では W に直す(3.7kW = 3,700 W)W(ワット)
V電源の電圧(線と線のあいだ。例 200V)V(ボルト)
η効率。0.87 なら「入れた電力の87%が回す力になる」単位なし(割合)
cosφ力率。0.82 なら「流れた電流の82%ぶんが仕事をする」単位なし(割合)

つまり、効率や力率が低い(1から遠い)モーターほど、割り算の分母が小さくなり、同じ kW でも電流が大きくなります。これが「kW より電流で選ぶ」理由の正体です。

電力は電圧かける電流の式から、モーターの電流の式を4段で組み立てる図

数字を入れて確かめる:同じ 3.7kW でも電流が違う

組み立てた式に、2台の架空のモーターの数字を入れます。数値はすべて説明のための例です。

計算例
計算例:同じ 3.7kW でも定格電流が違う(数値はすべて例)
使う式(さっき組み立てた式)
I = P ÷ (√3 × V × η × cosφ)
モーターA:4極(例:200V・効率 η=0.87・力率 cosφ=0.82)。まず分母だけ計算する
√3 × 200 V × 0.87 × 0.82 = 1.732 × 200 × 0.87 × 0.82 = 247.1
出力 3,700 W を分母で割る
I = 3,700 W ÷ 247.1 = 15.0 A
モーターB:6極(例:200V・効率 η=0.86・力率 cosφ=0.74)。同じく分母から
√3 × 200 V × 0.86 × 0.74 = 1.732 × 200 × 0.86 × 0.74 = 220.5
出力 3,700 W を分母で割る
I = 3,700 W ÷ 220.5 = 16.8 A
定格出力電流 16.6 A のインバータ(例)と比べる
A:15.0 A ≦ 16.6 A → 合格 / B:16.8 A > 16.6 A → 不合格
同じ 3.7kW でも、モーターBではこのインバータは足りない。kW の数字だけで選ぶと、この違いを見落とす

4. 答えの意味と、桁の確かめ方

モーターBは力率が低い(0.74)ぶん、同じ仕事をするのに電流を多く飲みます。つまり、燃費の悪い車です。極数(モーターの中の磁石の組の数)が多いモーターは、力率が低めになりやすく、電流が大きくなりがちです。

答えの桁がおかしくないかは、「もし効率も力率も100%だったら」で確かめます。3,700 W ÷ (1.73 × 200 V) = 約10.7 A です。実際は効率と力率のぶん電流が増えるので、10.7 A より大きい 15〜17 A は自然な答えです。もし 1.5 A や 150 A が出たら、kW を W に直し忘れたか、√3 の掛け忘れを疑います。

POINT

実際の選定では、この式を計算する必要はありません。モーターの銘板の定格電流を読めば、それが答えです。式は「同じ kW でも電流が違うことがある」を納得するためのものです。

極数とモーターの回る速さの関係は、同じ筆者が運営する電気のブログ shirasusolo.net の三相誘導電動機とはで図解しています。

同じ3.7kWのモーターでも電流が違い、片方はインバータの限度を超えることを示す棒グラフ

選ぶときに見る数字2:短い時間なら「がんばれる量」

ひとことで言うとインバータは、動き出しの数秒だけなら、ふだんより多くの電流に耐えられます。その限度が「過負荷耐量」です。

モーターは、止まっている状態から動き出すとき、ふだんより多くの電流を必要とします。止まっている重いものを動かすには、余分な力が要るからです。

たとえると

車で高速道路に合流するとき、アクセルをぐっと踏み込みますね。エンジンは短い時間なら高い回転で回せますが、ずっと高い回転のまま走ると熱くなりすぎます。インバータも同じで、短い時間なら、ふだんの限度より多くの電流を流してがんばれます。ただし、がんばれる時間には限りがあります。

この「ふだんの何%の電流を、何秒までならがんばれるか」を表した数字を、過負荷耐量と呼びます。たとえば、ある機種の標準の使い方では「定格の150%を60秒」「200%を3秒」まで耐えられると決められています。

この表の見方:左の電流が、真ん中の時間より長く続くと、インバータは身を守るために止まります

流れる電流(ふだんの何%)がんばれる時間(例:三菱電機 FR-A800 の ND)車でいうと
100%までずっとふつうに巡航
150%まで60秒まで合流でぐっと踏み込む
200%まで3秒まで一瞬だけベタ踏み
それより多い・長いインバータが自分で止まるエンジンが焼けないよう止まる

ここで「え、止まるの?」と思った方へ。インバータが止まるのは、壊れたのではなく、中のスイッチの部品が熱で壊れないように自分で止まって身を守ったのです。工場ではこれを「トリップ」と呼びます。選定で過負荷耐量を確かめるのは、このトリップを起こさないためです。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

インバータが短い時間だけ大きな電流に耐えられる範囲を示す図

なぜ「150%なら60秒、200%なら3秒」なの?

「多く流すほど、がんばれる時間が短くなる」のはなぜでしょう。答えは熱です。

たとえると

やかんを火にかけると、火を強くするほど早くお湯がわきます。インバータの中のスイッチの部品も同じで、電流を多く流すほど早く熱くなります。部品には「ここまでなら大丈夫」という温度の上限があり、そこに届くまでの時間が、がんばれる時間です。強火(200%)ならすぐ上限に届き、中火(150%)なら少し長く持ちます。

ざっくり言うと、電気が通るときに出る熱は、電流が増えるとそれ以上の勢いで増えます(電線の熱は電流の2乗に比例します。電流が1.5倍なら熱は約2.3倍、2倍なら4倍)。本当は部品の種類や冷え方でもう少し複雑ですが、「電流が少し増えるだけで、熱はぐっと増える」と覚えておけば十分です。

そのうえで、部品はすぐには熱くならず、温まるまでに少し時間がかかります(やかんの水がすぐにはわかないのと同じ)。だから、短い時間ならふだんより多く流しても上限に届きません。メーカーは、この温まり方から、中の部品が上限を超えない電流と時間の組を決めて、「150%・60秒」「200%・3秒」のように示しています。

つまり、過負荷耐量は「何%まで」だけでなく、「何%を、何秒まで」の組で読む数字です。動き出しの電流を確かめるときも、電流の大きさと、その電流が続く時間の両方を比べます。

なお、表に書かれているのは決められた組(150%・60秒、200%・3秒)だけで、その間の値(たとえば170%なら何秒か)は表からは分かりません。このため、あとの計算例では安全側の「150%・60秒」の線で比べます。

火を強くするほど早くお湯がわくやかんにたとえて、電流が多いほどがんばれる時間が短いことを示すイラスト

選ぶときに見る数字3:同じ1台でも「モード」で変わる

ひとことで言うと最近のインバータは、軽い負荷向け・重い負荷向けの「モード」を選べ、モードで名乗れる電流とがんばれる量が変わります。

カタログを見ると、1つの機種に定格の欄が2〜4つ並んでいることがあります。これは、同じ1台を「どんな機械に使うか」で、数字の配分を変えられるからです。

たとえると

同じ車でも、平らな道を1人で走るときと、トレーラーを引いて坂を上るときでは、エンジンにかかる負担がまったく違います。インバータの「モード」は、車の走行モードのようなものです。
・軽い負荷のモード:ふだん送れる量(名乗れる電流)を多めにする代わりに、がんばれる量は少し
・重い負荷のモード:ふだん送れる量は少なめにする代わりに、がんばれる量を大きく

この、1台で定格を選べるしくみを多重定格と呼びます。メーカーによって「軽負荷(LD)」「標準負荷(ND)」「重負荷(HD)」などの名前がついています。どのモードを使うかは、動かす機械で決めます。

この表の見方:左の列で、自分の機械に近い行を探します。3列目のモードの欄でカタログの電流を読みます

動かす機械と使い方力のかかり方使うモードの目安理由
ファン・ポンプ・ブロワ(風や水の量を調節)回る速さが下がると、要る力も大きく下がる軽い負荷のモードを検討動き出しの電流が小さく、がんばる量が少なくてよい
コンベア・搬送(一定の速さで流す)速さに関係なくほぼ一定の力が要る標準のモード(荷が重ければ重負荷)動き出しにふだんより多い電流が短く流れる
昇降・押し出し・何度も止めて動かす機械ゆっくりのうちから大きな力が要る重い負荷のモード動き出しや負荷の急変で大きな電流が流れ、がんばる量が要る
迷ったとき—標準のモードで選び、計算(手順の STEP5)で確かめる計算で収まらなければ重負荷へ

メーカーの資料でも、同じ考え方で使い道が書かれています。たとえば安川電機の GA700 の技術資料では、重負荷(HD)の使い道に押し出し機・コンベア・クレーン・巻上げ機、標準負荷(ND)の使い道にファン・ポンプ・ブロワが挙がっています。

実務の判断のコツ

ファンかコンベアか迷う機械は、「止めずに回し続けるか」「1時間に何度も止めて動かすか」で決めます。何度も止めて動かす機械は、加速のたびに大きな電流が流れるので、標準か重負荷の定格側に寄せます。逆に、朝に起動して夕方まで回しっぱなしのファンなら、加速は1日に1回なので、軽負荷の定格で足ります。

同じインバータでも負荷の重さでモードを選ぶことを、平地を走る車と坂でトレーラーを引く車にたとえたイラスト

インバータの選定は5つの手順で進める

ひとことで言うと電圧を合わせ → 銘板の電流を読み → モードを決め → 電流で比べ → 動き出しを確かめる、の5つです。

ここまでで、選ぶのに必要な数字がそろいました。いよいよ手順です。ドライブに出かける前の準備にたとえると、「行き先(電源)を決める → 車の燃費(電流)を調べる → 道の様子(負荷)でモードを決める → ガソリンが足りるか → 合流の坂を上りきれるか」の順番です。

STEP 1

電源の電圧を合わせる。盤の電源が三相200V なら200V級、三相400V なら400V級のインバータから選びます。単相の電源で三相のモーターを回すときは、単相入力の機種を選ぶか、取扱説明書の決まりに従います。

STEP 2

モーターの銘板の定格電流を読む。kW ではなく、A の数字を書き写します。古い設備やモーターを入れ替えた設備では、図面より、今ついているモーターの銘板を信じます。

STEP 3

動かす機械で、使うモードを決める。ファン・ポンプなら軽い負荷、コンベアなら標準、昇降・押し出しなら重い負荷が目安です(前の段の表)。

STEP 4

そのモードの定格出力電流が、モーターの定格電流以上の機種を選ぶ。STEP3 で決めたモードの欄の電流で比べます。ここで別のモードの欄を見てしまうのが、よくある間違いです。

STEP 5

動き出しの一番大きな電流が、がんばれる量(過負荷耐量)に収まるか確かめる。収まれば合格です。収まらなければ、1段上の容量にするか、重い負荷のモードで選び直します。

一番間違えやすいのは STEP3 と STEP5 です。STEP3 を飛ばすと、カタログの一番大きい電流(軽い負荷のモードの値)だけを見て選んでしまいます。STEP5 を飛ばすと、ふだんは問題ないのに、動き出しのたびにインバータが止まります。

注意|ここで間違えやすい

設置場所が暑い・標高が高いときは、STEP4 で比べる電流が下がります(後半の「暑い場所・高い場所」の段で説明します)。夏の渋滞で車のエンジンが熱くなりやすいのと同じです。

インバータの選定の5つの手順の流れ図

計算してみよう:コンベアのモーターに合うインバータは?

ひとことで言うと手順の5つを、架空のモーターで1つずつ当てはめます。式の出どころから説明し、途中は1行も飛ばしません。

1. 何のために計算する?

「選んだインバータで、ふだんも動き出しも止まらないか」を、試運転の前に確かめるためです。この計算をしないと、据え付けてから「動き出すたびに止まる」が起き、インバータを買い直すことになります。

2. 式の出どころ:「%」を「倍」に直すだけ

ここで使う式は、新しい物理の式ではありません。「150%」は「1.5倍」という意味なので、次の2つの掛け算になります。

  • がんばれる電流 = インバータの定格出力電流 × 過負荷耐量の割合(150% → 1.5)
  • 動き出しの電流 = モーターの定格電流 × 動き出しに流れる割合(この例では 130% → 1.3)

そして、「動き出しの電流 ≦ がんばれる電流」で、しかも「動き出しの時間 ≦ がんばれる時間」なら合格です。車でいえば、「合流で要るパワー」が「エンジンが短い時間に出せるパワー」に収まり、合流が終わるまでエンジンが持つか、を確かめるのと同じです。

動き出しの割合(130%)は、ここでは例として置いた数字です。本当は、動かすものの回しにくさ(慣性)と、何秒で全速まで上げるかで決まります。重いものを短い時間で動かすほど、割合は大きくなります。この見積もり方は、慣性の計算の記事で説明します(公開しだい、ここにリンクします)。

3. 記号と単位

この表の見方:電流はどれも A(アンペア)。割合は単位なしなので、A × 割合 = A で、比べる2つの単位がそろいます

記号意味この例の値
I_mモーターの定格電流(銘板の A)15.0 A
I_invインバータの定格出力電流(選んだモードの欄)16.6 A
k_acc動き出しに流れる割合(モーターの定格電流の何倍か)1.30(130%)
k_ol過負荷耐量の割合(定格出力電流の何倍まで)1.50(150%)
t動き出しにかける時間と、がんばれる時間3 秒 と 60 秒

4. 数字を入れて解く

条件(例):三相200V の電源で、3.7kW・4極・定格電流 15.0 A のモーターがベルトコンベアを回します。動き出しは3秒です。候補のインバータは、標準のモードで定格出力電流 16.6 A・過負荷耐量 150%(60秒)です。

計算例
例題:ベルトコンベアの 3.7kW モーターに合うインバータ
STEP1 電源を合わせる(盤の電源の電圧を見る)
電源は三相200V → 200V級のインバータから選ぶ
STEP2 銘板の定格電流を読む(kW ではなく A)
I_m = 15.0 A
STEP3 モードを決める(判断表でコンベアの行)
コンベア → 標準のモード
STEP4 ふだんの電流を比べる(ポンプの量 ≧ 飲む量か)
I_inv = 16.6 A ≧ I_m = 15.0 A → 合格
STEP5-1 動き出しの電流 = I_m × k_acc
15.0 A × 1.30 = 19.5 A
STEP5-2 がんばれる電流 = I_inv × k_ol
16.6 A × 1.50 = 24.9 A
STEP5-3 時間を比べる(動き出し と がんばれる時間)
3 s ≦ 60 s → 時間は収まる
STEP5-4 電流を比べる
19.5 A ≦ 24.9 A → 合格
おまけ:余裕は何倍か(がんばれる電流 ÷ 動き出しの電流)
24.9 A ÷ 19.5 A = 1.28 → 約3割の余裕
このインバータでよい(ふだんも動き出しも収まる)

5. 答えの意味と、桁の確かめ方

つまり、このインバータは、ふだんの量にも合流の踏み込みにも余裕があります。約3割の余裕は、見積もりの誤差を吸収できる大きさです。

桁の確かめ方は、「動き出しの電流は、ふだんの電流の1〜2倍くらい」「がんばれる電流は、インバータの定格の1.1〜2倍くらい」という感覚と比べることです。19.5 A と 24.9 A はどちらもその範囲に入っています。もし 195 A のような数字が出たら、割合の % を倍に直し忘れて 130 を掛けていないかを疑います。

例題の計算の組み立て。動き出しの電流とがんばれる電流を出して比べる図

続き:同じモーターで、荷物を持ち上げる昇降機なら?

同じモーター・同じインバータを、荷物を持ち上げる昇降機に使ったらどうなるでしょう。重いものを下から持ち上げて動き出すので、動き出しの割合はコンベアより大きくなります。ここでは定格電流の180%が3秒流れると見積もります(例)。式は同じで、k_acc だけが 1.30 から 1.80 に変わります。

ここで「動き出しは3秒だけなのだから、200%・3秒の耐量で比べればよいのでは?」と思った方へ。メーカーの表で分かるのは「150%・60秒」と「200%・3秒」の2点だけで、その間(たとえば 27.0 A ÷ 16.6 A = 約163%を3秒)がどこまで許されるかは、表からは読めません。だから選定では、ぎりぎりを狙わず、安全側の「150%・60秒」の線で比べます。

計算例
例題の続き:昇降機の場合(同じモーター・同じインバータ)
STEP5-1 動き出しの電流 = I_m × k_acc(k_acc = 1.80)
15.0 A × 1.80 = 27.0 A
STEP5-2 がんばれる電流(さっきと同じ)
16.6 A × 1.50 = 24.9 A
STEP5-4 電流を比べる
27.0 A > 24.9 A → 不合格
どうするか
① 1段上の容量にする ② 重い負荷のモードで選び直して計算し直す ③ 動き出しの時間を延ばして電流を下げる(機械の動きが許せば)
同じモーターでも、動かす機械が変わると、合うインバータが変わる

コンベアと昇降機の違いを、電流のグラフが伸びていく動く図で比べます。同じモーター・同じインバータでも、動かす機械で合否が分かれる理由が目で追えます。

動かして確かめる

例題と同じ 3.7kW のモーター(定格電流 15.0 A)を、3秒かけて動き出させます。「動かす機械」を選んで「スタート」を押すと、下のグラフに流れる電流が描かれます。オレンジの点線が、インバータが60秒までがんばれる電流です。メーカーの表で分かるのは「150%・60秒」と「200%・3秒」の2点だけで、その間がどこまで許されるかは読めないため、本文と同じく安全側のこの線で比べます。

インバータ 定格 16.6 A 0.0 A モーター 流れる電流のグラフ(横=時間、縦=電流) 動き出し(3秒) 010203040 A 03秒6秒8秒 ずっと流せる電流 16.6 A 60秒までがんばれる電流 24.9 A(150%)

いまの様子:スタートを押すと、ここに説明が出ます。

動きは説明のための作り物です(電流の値は本文の例題と同じ例。「1段上のインバータ」の定格 24.0 A は説明のための例です。動き出しの電流の形、止まるまでの時間や止まり方は、機種と機械で変わります。150%を少し超えてもすぐ止まるとは限りませんが、表から読めない範囲なので選定では使いません)。

見てほしいのは、緑の線(流れる電流)とオレンジの点線(60秒までがんばれる電流)の上下です。昇降機では線が点線を超え、「1段上のインバータ」にすると点線が上がって収まります。

つまり、インバータの選定は「モーターだけ」を見ても決まりません。モーターが何を動かすかまで見て、はじめて決まります。車でいえば、同じ車でも、平地を走るのか、荷物を積んで坂を上るのかで、要る力が違うのと同じです。

注意|ここで間違えやすい

動き出しの割合は見積もりです。合否がぎりぎりのときは、メーカーの選定ソフトか選定の資料で確かめ、試運転で実際の電流をインバータの表示で見ます。

計算例のコンベアは限度に収まり、昇降機は限度を超えることを示すグラフ

仕事で使うとき1:カタログのモードの欄を正しく読む

ひとことで言うとモードを変えても「60秒がんばれる電流」はほぼ同じ。名前ではなく「何%・何秒」で比べます。

ここからは、実際にカタログを開いて選ぶときの読み方です。まず、多重定格(モード)の中身を、公開されている定格表の数字で確かめます。

この表の見方:左の3列はメーカーの定格表の値、右の列は筆者が掛け算した値です。同じ1台の本体を、どのモードで使うかの違いです

モード(三菱電機 FR-A820-00250-SYN の例)ふだんの電流(定格電流)60秒の過負荷耐量60秒がんばれる電流(計算)
SLD(超軽負荷)25 A110%25 × 1.10 = 27.5 A
LD(軽負荷)23 A120%23 × 1.20 = 27.6 A
ND(標準負荷。初期設定)17.5 A150%17.5 × 1.50 = 26.3 A
HD(重負荷)11 A200%11 × 2.00 = 22.0 A

SLD・LD・ND では、60秒がんばれる電流が 26〜28A でほぼ同じです。つまり、本体ががんばれる量はおおよそ決まっていて、モードは「ふだん名乗れる電流」と「短い時間の余裕」の配分を変えているだけです。HD は、ふだんの電流をさらに下げて余裕の割合を大きく取った、重い機械向けのモードです。

POINT

動き出しの電流が大きい機械を軽い負荷のモードで回すと、がんばれる割合が足りず、動き出しで止まります。平地向けのモードのまま、トレーラーを引いて坂を上ろうとするようなものです。

メーカーで違う:モードの名前とがんばれる量

モードの考え方はどの社も同じですが、名前と数字は社ごとに決まっています。公式の資料で確かめられた2社を並べます。

この表の見方:同じシリーズの中で、どのモードで使うかを選びます。60秒より短い時間の耐量(3秒など)は機種の資料で確かめてください

メーカー・シリーズモードの名前60秒の過負荷耐量切り替え方
三菱電機 FR-A800SLD(超軽負荷)/LD(軽負荷)/ND(標準負荷。初期設定)/HD(重負荷)110% / 120% / 150% / 200%パラメータ Pr.570 で選ぶ
安川電機 GA700ND(Normal Duty)110%パラメータ C6-01=1
安川電機 GA700HD(Heavy Duty)150%パラメータ C6-01=0

同じ「ND」でも、三菱電機 FR-A800 では150%・60秒、安川電機 GA700 では110%・60秒です。また GA700 の資料には、がんばれるのは10分に1回まで、と書かれています。何度も止めて動かす機械では、この「回数」の条件も確かめます。

メーカーで違う

ほかの社の機種も、名前と数字はカタログの「定格」の表と、取扱説明書のパラメータの章で確かめてください。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

モードを変えても60秒で流せる電流がほぼ同じことを示す棒グラフ

仕事で使うとき2:暑い場所・高い場所と、モーターの側の確認

ひとことで言うと暑い場所・空気の薄い高い場所では、インバータが流せる電流が下がります。モーターの冷え方も確かめます。
たとえると

夏の渋滞では車のエンジンが熱くなりやすく、高い山では空気が薄くてエンジンの力が落ちます。インバータも、まわりの空気で中を冷やしているので、暑い場所や空気の薄い高い場所では、流せる電流を下げて使う決まりがあります。ざっくり言うと「冷えにくい場所では、がんばらせすぎない」ということです。

この、条件に合わせて流せる電流を下げることを低減(ディレーティング)と呼びます。カタログの定格電流は、決められた条件のもとでの値なので、条件を超える場所では、下げたあとの電流で手順の STEP4 をやり直します。

メーカーの資料の例では、安川電機の GA700 は「まわりの温度 −10〜+50℃ は低減なし、60℃までは低減して使う」「標高 1,000 m までは低減なし、超えると 100 m ごとに出力電流を 1% 下げる(4,000 m まで)」と決めています。中のスイッチの切り替えを速くする設定(キャリア周波数)や、盤に何台も並べるときも、流せる電流が下がることがあります。

まわりの温度は、工場の気温ではなく、インバータのすぐそばの空気の温度です。夏の工場で盤の扉を閉め切ると、盤の中は外より暑くなります。盤の換気ファンやクーラーの選び方と一緒に考えます。

モーターの側も確かめる

ふつうのモーターは、自分の軸についた羽根で自分を冷やしています。ゆっくり回すと羽根もゆっくりになり、冷え方が落ちます(メーカーの資料にも、ずっと出せる力はモーターの冷え方で決まるとあります)。ゆっくり大きな力を長く出す機械では、専用のモーターや別付けの冷却ファン、外付けのモーター保護を検討します。400V級のモーターの配線の長さ・1台で何台も回す場合の決まりも、機種の取扱説明書で確かめてください。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

暑い場所と高い場所では流せる電流を下げることを、夏の渋滞と山道の車にたとえたイラスト

計算してみよう:高い場所では、流せる電流はいくつ下がる?

1. 何のために計算する?

標高の高い工場に置くとき、カタログの電流のままで比べてよいかを確かめるためです。この計算をしないと、平地なら合格の機種を選んでしまい、現地で止まることがあります。

2. 式の出どころ:メーカーの資料で決められた「下げ方」

ここで使う式は、物理の式ではなく、メーカーの資料で決められた決まりです(例:安川電機 GA700 の資料「1,000 m を超えると、100 m ごとに出力電流を 1% 下げる」)。空気は高い所ほど薄くなり、薄い空気は熱を運ぶ力が弱いので、高いほど冷えにくくなります。その分を「高さに比例して、まっすぐ下げる」という分かりやすい形にしたのがこの決まりです。

決まりを式にすると、次の2段です。

  • 下げる割合 = (標高 − 1,000 m) ÷ 100 m × 1%
  • 下げたあとの電流 = カタログの定格出力電流 × (1 − 下げる割合)

2段目の「1 − 下げる割合」は、「5%下げる」を「95%残す」に言い換えたものです。値段の「5%引き」で、元の値段に0.95を掛けるのと同じです。

3. 記号と単位

この表の見方:(h − 1,000 m) ÷ 100 m は、m を m で割るので単位が消え、「100 m が何個ぶんか」という数になります

記号意味この例の値
h設置場所の標高1,500 m
d下げる割合計算で出す(%)
I_invカタログの定格出力電流17.5 A
I_inv’下げたあとの定格出力電流計算で出す(A)
I_mモーターの定格電流17.0 A

4. 数字を入れて解く

計算例
計算例:標高が高い場所で、合否が変わる(数値は例)
低減なしなら、ふだんの電流を比べる
I_inv = 17.5 A ≧ I_m = 17.0 A → 合格に見える
1,000 m を超えた高さを出す
1,500 m − 1,000 m = 500 m
100 m が何個ぶんか
500 m ÷ 100 m = 5
下げる割合(1個ぶんで 1%)
d = 5 × 1% = 5%
残る割合に言い換える
1 − 0.05 = 0.95
下げたあとの定格出力電流
I_inv’ = 17.5 A × 0.95 = 16.6 A(16.625 A)
比べる
16.6 A < 17.0 A → 不合格。1段上の容量にする
平地では合格の機種が、高い場所では不合格になることがある。下げる割合は機種の取扱説明書で確かめる

5. 答えの意味と、桁の確かめ方

つまり、1,500 m の場所では、このインバータは「17.5 A のポンプ」ではなく「16.6 A のポンプ」として扱います。モーターが飲む 17.0 A に届かないので、1段上を選びます。

桁の確かめ方は、「1,000 m 上がるごとに1割(10%)下がる」と覚えておくことです。500 m 上なら半分の5%、下がるのは 17.5 A の5%で約0.9 A。数A も下がる答えが出たら、割合の計算を見直します。

標高が1000mを超えると100mごとに流せる電流を1%下げることを示すグラフ

インバータの選定でよくある失敗と、迷ったときの決め方

ひとことで言うと失敗のほとんどは「どれかの数字を見ていなかった」ことから起きます。

あとで困らないように、よくある失敗を「起きること」から逆にたどれる表にしました。車でいえば、「出発してからガス欠」「坂で止まる」を出発前に防ぐための表です。

この表の見方:左の列に心当たりがあれば、右の列の段を読み直します

よくある失敗あとで起きること防ぎ方
モーターと同じ kW で選んだふだんの電流がインバータの限度を超える、動き出しで止まる銘板の定格電流で比べる(STEP2・STEP4)
軽い負荷のモードの電流だけ見て選んだ何度も止めて動かす機械で、動き出しのたびに止まる動かす機械でモードを決めてから、その欄で比べる(STEP3)
名前(ND など)だけで他社と比べた置き換えたら、がんばれる量が足りない「何%・何秒」で比べる(仕事で使うとき1)
盤の中の温度・標高を見なかった夏だけ止まる、寿命が短くなる低減の決まりを確かめる(仕事で使うとき2)
止めるときのことを考えなかった止めるときにインバータの中の電圧が上がって止まる止める時間・ブレーキ抵抗・回生の対策を一緒に決める

5行目の「止めるとき」は、選ぶ段階で忘れやすい点です。重いものを短い時間で止めると、モーターが発電機のようになって電気がインバータに戻り(回生と呼びます。坂道のエンジンブレーキに似ています)、中の電圧が上がって止まります。対策は回生の記事で説明します(公開しだい、ここにリンクします)。

迷ったら何を優先するか

実務の判断のコツ

kW の数字が同じでも、電流で比べて足りなければ1段上を選びます。容量を上げるとインバータの値段と盤のスペースは増えますが、試運転で止まって工程が止まるほうが、あとから直す手間も費用も大きくなるからです。とくに昇降・押し出しのように重い負荷を低い速さから動かす設備は、計算で入っていても余裕が1〜2割しかなければ、1段上を候補に残して比べます。

逆に、ファン・ポンプのように動き出しの電流が小さい機械で、必要以上に大きな容量を選ぶと、値段・盤の大きさ・熱が増えるだけで得がありません。例題のコンベアのように、STEP5 で余裕が確かめられれば、それ以上は上げません。

メーカーの昇降向けの資料でも、モーターの容量に対して1ランク大きなインバータが望ましいと書かれています。

選んだあとにやること

容量が決まったら、据え付けてから最初に触る設定(最高の速さ・動き出しと止まるまでの時間・モーターの保護)に進みます。モーターの保護の設定には、STEP2 で読んだ銘板の定格電流をそのまま入れます。

インバータの選定チェックリスト(印刷して使えます)
  • □ 電源の電圧(200V級・400V級)が盤と合っている
  • □ モーターの銘板の定格電流を書き写した
  • □ 動かす機械から、モード(軽い負荷・標準・重い負荷)を決めた
  • □ そのモードの定格出力電流 ≧ モーターの定格電流
  • □ 動き出し・負荷の急変の一番大きな電流が、過負荷耐量(何%・何秒・回数)に収まる
  • □ まわりの温度・標高で低減が要らないか、取扱説明書で確かめた
  • □ ゆっくり長く回すなら、モーターの冷え方と外付けの保護を確かめた
  • □ 止める速さから、ブレーキ抵抗・回生の対策が要るかを決めた

よくある質問

Q. インバータとは簡単にいうと何ですか?

A. モーターの回る速さを自由に変える装置です。車のアクセルのように、少し踏めばゆっくり、深く踏めば速くモーターを回します。

Q. インバータはモーターと同じ kW を選べばいいですか?

A. kW ではなく、モーターの定格電流以上の定格出力電流を持つ機種を選びます。同じ kW でも電流が違うことがあるためです。

Q. インバーターのカタログに定格が何種類もあるのはなぜですか?

A. 動かす機械の重さに合わせて、ふだん流せる電流と短い時間の余裕の配分を変えられるからです。重い負荷ほど電流は小さく余裕は大きくなります。

Q. インバータが動き出しで止まるのはなぜですか?

A. 動き出しの電流が、インバータが短い時間だけ耐えられる量を超え、中の部品を守るために自分で止まるからです。容量かモードを見直します。

Q. 標高や周囲温度でインバータの容量は変わりますか?

A. 変わります。決められた標高や温度を超えると、流せる電流を下げて使う決まりがあり、下げたあとの電流で選び直します。

まとめ:インバータはモーターのアクセル。電流で選び、がんばれる量で確かめる

POINT
  • インバータは、モーターの回る速さを自由に変える「アクセル」。家のエアコンのインバーターと同じしくみ
  • 工場で使う理由は、ゆっくり動き出せる・速さを変えられる・ファンやポンプの電気代が減る、の3つ
  • 選ぶときは kW ではなく、モーターの銘板の定格電流で比べる(インバータが見張っているのは電流)
  • 動き出しの電流が、過負荷耐量(何%・何秒・回数)に収まるかを計算で確かめる
  • 動かす機械でモード(軽い負荷・標準・重い負荷)を決め、その欄の電流で比べる。名前ではなく数字で比べる
  • 暑い場所・高い場所では流せる電流が下がる

選定が終わったら、次は据え付けたあとに最初に触る設定の順番です。車でいえば、買った車のシートとミラーを合わせる段階です。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

PLC・サーボ・インバーターを実務で扱ってきた電気・制御の設計者です。制御の記事は、選び方・設定の順番・止まったときの切り分けを、実務の判断のしかたから書いています。機械(材料・機械要素・図面)の記事は本職ではないため、JIS とメーカーの技術資料を調べてまとめ、出典を示しています。

次に読むべき記事

容量が決まったら、設定の順番と、止まったときの切り分けへ進みましょう(記事は公開しだい、ここに並べます)。

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