※この記事にはプロモーションが含まれています。
- インバーター制御とは何か、言葉は聞くけれど、何をどう制御しているのかわからない
- インバーターを付けると省エネになると言われたが、なぜ電気が減るのか説明できない
- 「3乗則」の式を見ても、どこから来た式なのかわからず、計算に自信が持てない
- インバーター制御とは何か(扇風機のたとえで)
- 3乗則の式がどこから来るのか(物理の基本から1段ずつ)
- 省エネになる機械・ならない機械の見分け方
- 電気代を出す計算例3題と計算ツール
インバーター制御とは何かを、工場で初めて聞いた方に向けた記事です。省エネに効く理由は、中学校の理科の延長で説明できます。
この記事では、インバーター制御を扇風機の「弱」と「強」にたとえて、最初から最後まで扇風機の話で説明します。前の段がわかれば次の段が読めるように並べたので、上から順に読んでください。最後は、自分の工場のファンやポンプで、電気代がいくら減るかを計算できるところまで進みます。
インバーター制御とは、モーターに送る電気の周波数と電圧を変えて、モーターの回る速さを自由に変える方法です。扇風機を「強」から「弱」にするのと同じです。ファンやポンプでは、風の量が速さに、風の勢い(圧力)が速さの2乗に比例し、動力はその掛け算なので速さの3乗に比例します(3乗則)。回る速さを80%にすると、動力は理屈の上で約51%になります。ただし、コンベアのような機械、高い所へ水を上げるポンプ、いつも全速で回す設備では、効果は小さいか、ありません。
- 3乗則(風量・静圧・軸動力と回転数の関係)とダンパー制御との比較:環境省の対策資料(出所は省エネルギーセンター)
- 負荷の種類と省エネになる条件:中小企業基盤整備機構 J-Net21 の省エネQ&A
- 温室効果ガス排出削減等指針に基づく対策:排気量可変排気ファンの導入(環境省。出所は省エネルギーセンター「エネルギー管理のためのデータシート(第1集)」2014年)
- ポンプや送風機の回転速度調整による省エネとは?(その1)負荷の種類(J-Net21・中小企業基盤整備機構)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。
インバーター制御とは?扇風機の「弱」と「強」と同じです
家の扇風機には「弱・中・強」のボタンがあります。ボタンを押すと羽根の回る速さが変わり、風の強さが変わります。工場にも、換気のファン、水を送るポンプ、空気を送るブロワなど、羽根を回す機械がたくさんあります。
ところが、工場の大きなファンのモーターを電源に直接つなぐと、回る速さは「全速」の1つだけです。電源の電気は、東日本なら1秒に50回、西日本なら60回と向きが入れかわる速さ(周波数)が決まっていて、モーターはその速さに合わせて回るからです。つまり、ボタンが「強」しかない扇風機になってしまいます。
インバーターは、工場のモーターに「弱・中・強」のボタンを付ける装置です。正確には、ボタンの段がなく、つまみを回すように好きな速さに変えられます。電源の電気を受け取って、周波数を好きな値に作り直してからモーターに送ります。周波数を下げればゆっくり、上げれば速く回ります。
この、インバーターでモーターの回る速さを変えることをインバーター制御と呼びます。周波数と一緒に電圧も下げますが、ここは「速さに合わせて電圧も調節している」とだけ覚えておけば十分です。
| 扇風機のたとえ | 本物の工場では |
|---|---|
| 扇風機の羽根 | ファン・ポンプの羽根車 |
| 扇風機の中のモーター | 工場の三相モーター |
| 「弱・中・強」のボタン | インバーター(つまみのように好きな速さに) |
| 風の強さ | 風量・流量(1秒に送る空気や水の量) |
家の「インバーターエアコン」も同じ考え方で、圧縮機のモーターの速さを部屋の温度に合わせて変えています。
回路のしくみ(整流・平滑・PWM)は、同じ筆者が運営する電気のブログ shirasusolo.net のインバーターとはで図解しています。この記事は「速さを変えると、なぜ電気が減るのか」に絞ります。

インバーターがなぜ省エネに役立つのかを、原理からまとめて読みたいときの本の例です。オーム社の『「インバーター、マジわからん」と思ったときに読む本』(森本雅之 著・2026年2月発行)です。インバーターの原理と種類、内部のしくみ、インバーターでモーターを回す話、電源としての使い方までの6章でできています(楽天ブックスの目次)。
風を弱める方法は2つ:板でふさぐか、回る速さを落とすか
工場では、いつも全速の風や水が要るわけではありません。夜は人が少ないので換気を減らしたい、季節によって冷却水を減らしたい、といった場面がよくあります。インバーターがない設備では、風や水の量をどう減らしているのでしょうか。
扇風機が「強」しかないとき、風を弱めたければ、扇風機の前に板(段ボール)を立てて、風の通り道をふさぐしかありません。風は弱くなりますが、扇風機はさっきと同じ「強」で回り続けていて、電気もほとんど同じだけ使っています。板にぶつかった風のエネルギーは、ただ捨てられています。
工場のファンでは、この板にあたる部品をダンパー(風の通り道の開け閉めできるふた)、ポンプではバルブ(水の通り道の弁)と呼びます。ダンパーやバルブで絞って量を減らす方法を、ダンパー制御・バルブ制御と呼びます。
もう1つの方法は、扇風機を「弱」にすることです。羽根の回る速さそのものを落とせば、板はいりません。工場では、これがインバーター制御です。
板でふさぐ(ダンパー・バルブ制御)
- モーターはいつも全速
- 絞ったぶんのエネルギーを捨てている
- 設備が簡単で、初めの費用が小さい
回る速さを落とす(インバーター制御)
- 必要な量に合わせて速さを下げる
- 捨てていたエネルギーがなくなる
- 本体の費用と設定・保守の手間が増える
公的機関の資料では、風の量を80%にしたとき、ダンパーで絞ると動力は約95%でほとんど減らず、回る速さを80%に落とすと理屈の上では約51%まで下がります。「2割落としただけで半分?」と思った方へ。次の段で、この数字がどこから来るのかを1段ずつ組み立てます。

3乗則はどこから来る?物理の基本から組み立てる
いきなり完成した式を出さずに、理科の基本から4段で組み立てます。
段1:動力とは「力 × 速さ」
動力(パワー)とは、1秒あたりにする仕事の量です。仕事は「力 × 動かした距離」なので、1秒あたりにすると「力 × 1秒に進む距離」、つまり力 × 速さになります。単位はワット(W)です。重い荷物を速く運ぶほど、たくさんの動力が要る、という感覚と同じです。
ファンやポンプは、空気や水を管の中で押して送っています。管の中の水を、ピストンで押しているところを思い浮かべてください。
F[N] = p[Pa] × A[m²]
L[W] = F × v = p × A × v
Q[m³/s] = A[m²] × v[m/s]
L[W] = p[Pa] × Q[m³/s]
= W(ワット)になる
つまり、ファンの動力は「風の勢い × 風の量」で決まります。扇風機でいえば、「どれだけ強く押し出すか」と「どれだけたくさん送るか」の掛け算です。あとは、回る速さを変えたときに、この2つがそれぞれどう変わるかがわかれば、答えが出ます。

段2:風の量は、回る速さに比例する
扇風機の羽根は、1回転するたびに、決まった量の空気をかき出します。コップで水をくむのと同じで、1回にくめる量は同じなので、1秒にくむ回数が2倍になれば、くめる量も2倍です。羽根の回る速さを80%にすれば、1秒に送る風の量も80%になります。
風の量 Q は、回る速さ N に比例する(Q ∝ N)
記号の ∝ は「比例する」という意味です。N が2倍なら Q も2倍、N が0.8倍なら Q も0.8倍、という関係です。
段3:風の勢い(圧力)は、回る速さの2乗に比例する
次は風の勢いです。ここが3乗則のいちばんのポイントなので、身近な体験から考えます。
自転車で走ると、向かい風を感じますね。ゆっくり走るとそよ風ですが、速く走ると、顔や体をぐっと押されます。速さが2倍になると、押される力はおよそ4倍になります。なぜ4倍か。速さが2倍になると、①1秒にぶつかってくる空気の量が2倍になり、②1つ1つの空気がぶつかる勢いも2倍になるからです。2倍 × 2倍 = 4倍。これが「2乗」の正体です。
扇風機の羽根も同じです。羽根は空気を押して、勢いをつけて送り出します。羽根の先が動く速さは、回る速さに比例します。羽根が速く動くほど、空気をたくさん、しかも強く押せるので、押し出す勢い(圧力)は回る速さの2乗に比例します。
風の勢い p は、回る速さ N の2乗に比例する(p ∝ N²)
ざっくり言うと、の説明です。本当は、羽根の形や空気の流れ方で少しずれますが、同じファンを同じ空気で回すかぎり、この関係がよく成り立つことが知られています(ファン・ポンプの「相似則」と呼ばれる関係です)。

段4:掛け算すると、動力は回る速さの3乗
段1で、動力は「圧力 × 流量」でした。段2・段3の結果を、ここに入れます。
L = p × Q
Q ∝ N
p ∝ N²
L ∝ N² × N = N³
L₂ = L₁ × (N₂ / N₁)³
記号と単位を整理します。どれも、下げる前と下げたあとの「比」で使うので、単位をそろえれば何でもかまいません。
この表の見方:添え字の1は回る速さを下げる前、2は下げたあとです
| 記号 | 意味 | 単位の例 | 扇風機でいうと |
|---|---|---|---|
| N | 回る速さ(回転数) | r/min(1分間の回転数)、または定格に対する% | 羽根の回る速さ |
| Q | 風量・流量(1秒や1分に送る量) | m³/min、m³/s | 風の量 |
| p | 圧力(押し出す勢い) | Pa(パスカル) | 風の勢い |
| L | 軸動力(モーターの軸が羽根車を回すのに使う動力) | kW | 羽根を回すのに要る力の大きさ |
数字を入れて、回る速さを80%にしたときを計算します。
N₂ / N₁ = 80% ÷ 100% = 0.8
Q₂ / Q₁ = 0.8 → 風の量は80%
p₂ / p₁ = 0.8 × 0.8 = 0.64 → 勢いは64%
L₂ / L₁ = 0.8 × 0.64 = 0.512
0.8³ = 0.8 × 0.8 × 0.8 = 0.512
1 − 0.512 = 0.488 → 約49%減る
つまり、扇風機を「強」から少し落とすだけで、羽根を回すのに要る力は半分近くになります。風の量は8割残っているのに、動力は5割。この差が、インバーター制御で電気が大きく減る理由です。
桁の確かめ方:3乗は「掛けるたびに小さくなる」ので、0.8を3回掛けた答えは、0.8より必ず小さくなります。0.5前後なら合っています。0.9の3乗なら約0.73、0.5の3乗なら0.125(8分の1)です。

数字で見る3乗則:2割下げると、動力は約半分
3乗則の計算を、回る速さごとに表にしました。左の列から、自分のファンをどこまで下げられそうかを当てはめてみてください。
この表の見方:理想の3乗で計算した値です。実際は、インバーターとモーターの損失や、くみ上げる高さなどで、この表より減り方は小さくなります(後半の「3乗則どおりに減らない理由」で説明します)
| 回る速さ(=風量・流量) | 軸動力(3乗) | 減る割合 |
|---|---|---|
| 100% | 100% | 0% |
| 90% | 72.9% | 27.1% |
| 80% | 51.2% | 48.8% |
| 70% | 34.3% | 65.7% |
| 60% | 21.6% | 78.4% |
| 50% | 12.5% | 87.5% |
3乗は、サイコロの体積と同じです。1辺が80%の小さなサイコロを作ると、体積は 0.8×0.8×0.8 = 51.2% になります。見た目は2割小さいだけなのに、中身(体積)は約半分です。回る速さを2割下げたときの動力も、これと同じ割合で減ります。
大事なのは、少し下げるだけで効くことです。90%に下げるだけでも約27%減ります。

板でふさいだときとの差は約44ポイント
では、③の「板でふさぐ」方法と比べてみます。公的機関の資料の値を並べます。
この表の見方:同じ風の量でも、方法によって動力がこれだけ違います
| 風の量 | 板でふさぐ(ダンパー制御)の動力 | 回る速さを落とす(インバーター・理想)の動力 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| 80% | 約95% | 51.2% | 環境省の対策資料(元は省エネルギーセンターのデータ) |
| 75% | 約92% | 42.2%(実機の曲線では約43%) | J-Net21 の省エネQ&A その4 |
扇風機の前に板を立てても、扇風機は全力で回っているのと同じです。同じ風の量80%なのに、約44ポイントの差がつきます。
この差を、動く図で確かめましょう。風の量を同じにしたまま、羽根の回り方と電気の量がどう違うかがわかります。
動かして確かめる
スライダーで風の量を変えると、左右のファンが同じ量の風を送ります。左は板(ダンパー)でふさぎ、右は回る速さを落とします。羽根の回り方と、下の「電気(動力)」の棒を比べてください。
いまの様子:スライダーを動かすと、ここに説明が出ます。
動きは説明のための作り物です。右(インバーター)は損失のない理想の3乗で計算しています。左(板でふさぐ)は、公的機関の2つの値(風の量80%で約95%・75%で約92%)を通る目安の線で、ほかの風の量の値は例です。
見てほしいのは、左の羽根は風の量をいくら減らしても全速のままで、板の手前で風(オレンジの点)が行き場をなくしている所です。年間の電気代は、このあとの計算ツールで出せます。
「ダンパーでも少しは減るのはなぜ?」と思った方へ。ファンは、通り道を絞られて風の量が減ると、羽根が押す空気の量が減るぶん、少しだけ軽くなります。ただ、その減り方は小さく、回る速さを落とす方法には遠く及びません。

省エネになる機械・ならない機械
ここまでの3乗則は、ファンやポンプの話でした。では、工場のどんな機械でも、インバーターで速さを下げれば電気が減るのでしょうか。答えは「いいえ」です。機械によって、回る速さと必要な力(トルク)の関係が違うからです。
扇風機を手で回すところを想像してください。ゆっくり回せば軽いのに、速く回そうとすると、空気が重くなって手ごたえが増えます。これが「速いほど重い」機械です。一方、平らな床で台車に箱を載せて押すときは、ゆっくり押しても速く押しても、押す重さはだいたい同じです。これが「速さに関係なく同じ重さ」の機械です。
回す力の強さをトルクと呼びます。ファンやポンプは、回る速さを下げるとトルクも下がる機械で、これを低減トルク負荷(トルクが回転の2乗で下がるので、2乗低減トルク負荷とも)と呼びます。コンベアのように、速さを下げてもトルクが変わらない機械は定トルク負荷です。

負荷の3種類と、インバーターの省エネ
機械が必要とする力の性質を、工場では「負荷の種類」と呼んで3つに分けます。
この表の見方:左の列で設備を探し、右の列で省エネになるかを見ます。J-Net21 の省エネQ&A の分類をもとにまとめました
| 負荷の種類 | 代表的な設備 | 回る速さを下げると | インバーターの省エネ |
|---|---|---|---|
| 低減トルク負荷 | 遠心ファン・遠心ポンプ・ブロワ | トルクは2乗、動力は3乗で下がる | 大きい |
| 定トルク負荷 | コンベア・巻上げ機・ギアポンプ・ルーツブロア | トルク一定、動力は速さに比例 | 多くの場合ない(時間が延びる) |
| 定出力負荷 | 工作機械の主軸・巻取機 | トルクが上がり、動力は一定 | ない |
名前に「ポンプ」「ブロワ」と付いていても、ギアポンプやルーツブロアのような容積式(決まった体積をすくって押し出す形)は、定トルク負荷になります。省エネになるのは、羽根車を回して流す遠心式です。どちらの形かは、機械の仕様書で確かめます。
インバーター化の候補を選ぶときは、まず「その設備は、一日のうち全速が要らない時間が長いか」を見ます。負荷の種類が低減トルクでも、いつも全速が必要な設備は回転を下げられないので、効果はほとんど出ません。逆に、ダンパーやバルブを半分くらい絞ったまま長い時間回しているファン・ポンプは、最初に検討する価値があります。

電気代を出す式を組み立てる:効率で「割る」のはなぜ?
ここで出てくる言葉は2つです。軸動力は、モーターの軸が羽根車を回すのに使う動力。消費電力は、電源からモーターとインバーターに入っていく電気です。電気代を払うのは消費電力のほうなので、軸動力から消費電力に直します。
なぜ効率で「割る」のか
穴のあいたバケツで水を運ぶところを想像してください。運ぶ途中で1割こぼれるバケツ(効率90%)で、9リットル届けたいなら、最初に10リットルくむ必要があります。9 ÷ 0.9 = 10。届けたい量を、効率で割ると、くむ量が出るのです。モーターも同じで、羽根車に届けたい動力(軸動力)を効率で割ると、電源からくむ電気(消費電力)が出ます。
η = 出力 ÷ 入力
入力 = 出力 ÷ η
消費電力[kW] = 軸動力[kW] ÷ ηm ÷ ηi
電力量[kWh] = 消費電力[kW] × 運転時間[h]
電気代[円] = 電力量[kWh] × 単価[円/kWh]
ηm はモーターの効率、ηi はインバーターの効率です(η は「イータ」と読みます)。kWh(キロワット時)は、1 kW の電気を1時間使った量です。
この表の見方:計算例では、この表の値に架空の例を入れます
| 値 | 記号・単位 | どこから取るか |
|---|---|---|
| 全速のときの軸動力 | L₁ [kW] | ファン・ポンプの性能表、または今の電力を測って逆算 |
| 運転する風量・流量の割合と時間 | Q [%]・t [h/年] | 運転日報、ダンパー・バルブの開度の記録、流量計 |
| 今の制御での軸動力の割合 | [%] | ダンパー:性能表やデータ。バルブ:近似式。測れるなら実測 |
| モーター・インバーターの効率 | ηm・ηi [%] | モーターの銘板・カタログ、インバーターの取扱説明書 |
| 電気の単価 | [円/kWh] | 自社の電力契約 |
電気の単価は、契約によって基本料金と電力量料金の分け方が違います。インバーター化で減るのは主に電力量(kWh)なので、まずは電力量料金の単価で計算し、最大需要電力(デマンド)が下がるかは別に見ます。
デマンド(30分ごとの平均電力の最大値)と基本料金の関係は、shirasusolo.net の最大需要電力の記事で計算のしかたを説明しています。

計算例1:板でふさいでいた排風機を、インバーターにする
条件(例):全速のときの軸動力が 15 kW の排風機を、ダンパーで風の量を80%に絞って、年6,000時間回しています。これを、ダンパーを全開にして、インバーターで回る速さを80%に下げる場合を計算します。数値はすべて説明のための例です。
L₁ = 15 kW
95%
15 kW × 0.95 = 14.25 kW
14.25 kW ÷ 0.92 ≒ 15.49 kW
15.49 kW × 6,000 h ≒ 92,935 kWh/年
15 kW × 0.8³ = 15 kW × 0.512 = 7.68 kW
7.68 kW ÷ 0.92 ÷ 0.95 ≒ 8.79 kW
8.79 kW × 6,000 h ≒ 52,723 kWh/年
92,935 − 52,723 = 40,212 kWh/年(40,212 ÷ 92,935 ≒ 43%減)
40,212 kWh × 20 円/kWh ≒ 80.4 万円/年
つまり、この排風機は、ダンパーで風を捨てるために年に約80万円ぶんの電気を使っていた、ということです。桁の確かめ方は、「軸動力が95%から51%へ、ほぼ半分 → 電力量の差は全体の4割強」とざっくり見積もって、近ければ合っています。
この計算では、モーターの効率を一定としています。実際は軽い負荷で効率が少し下がるので、結果はこれより少し小さくなります。J-Net21 の計算例でも、理論の 0.75³ = 0.42 に対し実機の曲線から読んだ43%を使い、控えめに計算しています。
- ダンパー制御の軸動力の割合(風量80%で約95%):環境省の対策資料(出所は省エネルギーセンター)
- 実機の曲線と理論の差・計算例:J-Net21 省エネQ&A その2・その4
- 温室効果ガス排出削減等指針に基づく対策:排気量可変排気ファンの導入(環境省。出所は省エネルギーセンター「エネルギー管理のためのデータシート(第1集)」2014年)
- 同(その2)バルブ調整と回転速度調整・計算例(J-Net21)
- 同(その4)送風機のダンパー調整と回転速度調整(J-Net21。参考文献は省エネルギーセンター「新訂エネルギー管理技術 電気管理編」ほか)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

計算例2:高い所へ水を上げるポンプは、3乗則どおりに減らない
ポンプには、水を高い所へ持ち上げるものがあります。屋上のタンクや冷却塔へ水を送るポンプです。
庭のポンプから、ホースで2階のベランダの鉢に水をやるところを想像してください。水を2階まで持ち上げるには、それだけで一定の勢い(圧力)が要ります。ポンプをゆっくり回して水の量を減らしても、「2階まで持ち上げる分」の勢いは減りません。さらに下げすぎると、水が2階まで届かなくなります。
この、くみ上げる高さを実揚程(じつようてい)と呼びます。3乗則の段3で「圧力は回る速さの2乗」としましたが、実揚程があるポンプでは、圧力の中に「速さを下げても減らない部分」が混ざっています。そのため、3乗則ほどは減りません。

必要な圧力を「高さの分」と「配管の分」に分けて組み立てる
必要な圧力を2つに分けます。ポンプでは圧力を「何 m の高さまで上げられるか」で表し、これを揚程と呼びます。
例:h = 0.3 なら、揚程の3割が「持ち上げる高さ」
高さの分 = h
配管の分 = (1 − h) × Q²
H = h + (1 − h) × Q²
動力の割合 ≒ Q × (h + (1 − h) × Q²)
Q × Q² = Q³ → 3乗則にもどる
バルブで絞る方法では、ポンプは全速のままで、出せる揚程の余りをバルブで捨てています。J-Net21 の解説の近似を使います。
H = 1.4 − 0.4 × Q²
動力の割合 ≒ Q × (1.4 − 0.4 × Q²)
どちらの式も、ポンプとモーターの効率を流量によらず一定とみなした近似です。設備の判断には、ポンプのメーカーの性能曲線で確かめてください。
L₁ = 11 kW
0.7 × (1.4 − 0.4 × 0.7²) = 0.7 × (1.4 − 0.196) = 0.7 × 1.204 ≒ 0.843
11 kW × 0.843 ÷ 0.90 ≒ 10.30 kW
10.30 kW × 5,000 h ≒ 51,504 kWh/年
0.7 × (0.3 + 0.7 × 0.7²) = 0.7 × (0.3 + 0.343) = 0.7 × 0.643 ≒ 0.450
11 kW × 0.450 ÷ 0.90 ÷ 0.95 ≒ 5.79 kW
5.79 kW × 5,000 h ≒ 28,954 kWh/年 → 差 22,551 kWh/年(約44%減・20円/kWh で約45万円)
0.7 × (0.6 + 0.4 × 0.7²) = 0.7 × (0.6 + 0.196) = 0.7 × 0.796 ≒ 0.557
11 kW × 0.557 ÷ 0.90 ÷ 0.95 ≒ 7.17 kW
7.17 kW × 5,000 h ≒ 35,843 kWh/年 → 差 15,661 kWh/年(約30%減・約31万円)
つまり、同じ流量でも、高い所へ上げる割合が大きいほどインバーターの得は小さくなります。実揚程がない(循環するだけの配管)なら h = 0 で 0.7³ = 0.343、削減は約57%です。J-Net21 の解説でも、実揚程が小さく、流量の割合がおよそ30〜80%の範囲で有効とされています。
実揚程があるポンプで回る速さを下げすぎると、ポンプの揚程が実揚程に届かず、水が上がらなくなります(2階に水が届かない状態)。インバーターの下限の周波数は、必要な揚程が出る回る速さより下げない値にします。
- 実揚程と省エネ効果、揚程曲線・管路抵抗曲線の2次曲線の近似(締切揚程1.4倍):J-Net21 Q1187
- 実揚程の大きなポンプにインバータを取り付けても省エネ効果が少ないのはなぜ?(J-Net21)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

計算例3:コンベアは速さを下げても電気が減らない
台車で100個の箱を運ぶ仕事を考えます。ゆっくり押せば1回あたりは楽ですが、そのぶん時間がかかります。運ぶ箱の数が同じなら、やる仕事の合計は変わりません。コンベアも同じで、速さを下げると1秒あたりの電力は減りますが、同じ量を運ぶのにかかる時間が延びます。
4 kW × 8 h = 32 kWh/日
4 kW × 0.8 = 3.2 kW
8 h ÷ 0.8 = 10 h
3.2 kW × 10 h = 32 kWh/日 → 全速と同じ
32 kWh ÷ 0.95 ≒ 33.7 kWh/日(かえって増える)
電力量は「電力 × 時間」なので、グラフにすると長方形の面積になります。高さ(電力)が8割になっても、横幅(時間)が1.25倍に延びれば、面積は同じです。
運ぶものがない時間に止めれば電力は減りますが、それは運転のしかたの効果です。定トルク負荷では、インバーターは省エネより、ゆっくり動き出す・速さを合わせるために使うもの、と考えます。

インバーター省エネの計算ツール
ここまでの式で、年間の電力量と電気代を出します。運転の割合と時間は3つまで。今の電力を測ってあれば「今の電力」に入れます(空欄ならバルブ制御の近似式)。ファンは実揚程の比を0にします。
計算の前提:インバーター側は 軸動力 × Q ×(h +(1 − h)× Q²)÷ モーター効率 ÷ インバーター効率、今の制御(空欄のとき)は 軸動力 × Q ×(締切揚程の比 −(締切揚程の比 − 1)× Q²)÷ モーター効率。効率は流量によらず一定とみなした目安です。入れた数字は画面の中で計算するだけで、どこにも送信されません。設備の判断は、メーカーの性能曲線と実測で確かめてください。
初期値は計算例1に近い条件です。今の制御を近似式で出しているので結果は少し違いますが、「今の電力」に 15.49 と入れると計算例1とほぼ同じ(約4.0万kWh・約80万円)になります。軸動力11・実揚程の比0.3・モーター効率90・流量70%・5,000時間にすると、計算例2の約2.26万kWh(約44%)になります。
運転の割合ごとの時間がわからないときは、まず1週間、ダンパー・バルブの開度か電流を記録します。インバーター化の効果は、中間の風量・流量で回している時間が長いほど大きくなります(三菱電機の省エネの資料にも同じ説明があります)。
- 中間風量で運転する時間が長いほど効果が大きい:三菱電機 FR-E800 NEWS Vol.04 省エネ編
- FR-E800 NEWS Vol.04 省エネ編 L(名)06140-A 2022年9月(三菱電機)
情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。
仕事で使うとき1:3乗則どおりに減らない5つの理由
ここからは、実際の設備で見積もりを出すときの注意です。扇風機でいえば、「弱」にしても、モーター自身の熱やボタンの回路の電気は少し残る、ということです。
この表の見方:上から、どの設備にも効く理由、条件しだいで効く理由の順です
| 理由 | 何が起きるか | 計算での扱い |
|---|---|---|
| インバーターの損失 | 自身が数%を熱にする。全速の時間はかえって増える | インバーターの効率で割る |
| 軽い負荷でのモーターの効率の低下 | 負荷が軽くなると効率が少し下がる | 効率一定の計算は少し甘め |
| 実揚程・一定に保つ圧力 | その分の圧力は減らない | 計算例2の式で実揚程の比を入れる |
| 下限の回る速さ | 揚程・冷却・機械の都合で下げられない | 下限より下はバルブ・台数で調整 |
| 全速の時間が長い | 全速の時間は効果がない | 運転パターンを時間ごとに分けて計算 |
環境省の対策資料にも、制御できる回転数の下限値に留意する必要がある、と注意書きがあります。ふつうのモーターは自分の軸の羽根で自分を冷やしているので、ゆっくり長く回すと冷え方が落ちます。
効果の見込みを社内で説明するときは、3乗則の理論値ではなく、実揚程・効率を入れた控えめな値を出します。理論値で約束して実際が下回ると、次の省エネの提案が通りにくくなるからです。導入後は、インバーターの出力電力のモニタや電力計で、実際の電力量を前後で比べられるようにしておきます。
仕事で使うとき2:インバーター化の前に確かめる手順
効果を計算する前に、今の運転を測ります。扇風機でいえば、「1日のうち、どれくらいの時間『弱』で足りるのか」を先に調べる、ということです。
- □ 遠心式のファン・ポンプ・ブロワである(容積式・コンベアではない)
- □ ダンパー・バルブで絞って運転している時間が長い
- □ 流量の割合ごとの運転時間を測った(または記録から出した)
- □ 実揚程・一定に保つ圧力の割合を確かめた
- □ 下限の回る速さ(周波数)を、必要な揚程・圧力から決めた
- □ 効果は理論値ではなく、効率と実揚程を入れた値で出した
- □ 導入後に電力量を比べる方法(電力計・インバーターのモニタ)を決めた
インバーターの容量は、モーターの kW ではなく、モーターの銘板に書かれた定格電流で選びます(インバーターの選び方の記事で扱います。公開しだい、ここにリンクします)。
よくある質問
まとめ:インバーター制御は工場の扇風機の「弱」ボタン。効くのは絞って回しているファン・ポンプ
- インバーター制御とは、周波数と電圧を変えて、モーターの回る速さを変える方法(扇風機の弱・強)
- 板でふさぐ(ダンパー・バルブ)と電気はほとんど減らず、回る速さを落とすと大きく減る
- 3乗則:動力=流量×圧力、流量∝速さ、圧力∝速さの2乗 → 動力∝速さの3乗。80%で約51%
- 省エネになるのは低減トルク負荷(遠心ファン・ポンプ)。コンベアなどの定トルク負荷はならない
- 電気代 = 軸動力 ÷ 効率 × 時間 × 単価。実揚程・損失・下限・全速の時間で、3乗則より減り方は小さい
- 効果は運転パターンを測ってから計算し、控えめな値で説明する
効果が見込めたら、次はインバーターの選び方と、据え付け後の設定の順番です(記事は公開しだい、ここに並べます)。
PLC・サーボ・インバーターを実務で扱ってきた電気・制御の設計者です。制御の記事は、選び方・設定の順番・止まったときの切り分けを、実務の判断のしかたから書いています。機械(材料・機械要素・図面)の記事は本職ではないため、JIS とメーカーの技術資料を調べてまとめ、出典を示しています。


