インバータの回生をやさしく図解|過電圧トリップと3つの対策

回生は坂を下る自転車。下り坂で発電する電動アシスト自転車のイラスト インバーター
お悩み
こんなふうに思っていませんか?
  • 減速のたびにインバータが「過電圧」で止まる
  • 「回生」と言われても、何が起きているのかイメージできない
  • ブレーキ抵抗と回生コンバータ、どちらを付ければいいかわからない
この記事でわかること
  • インバータの回生とは何か(坂を下る自転車のたとえで)
  • なぜ電圧が上がって止まるのか
  • 止まったときに「いつ出たか」で見る場所を決める切り分け
  • 3つの対策の選び方と、回生エネルギー・%ED の計算(式の出どころから)

インバータの過電圧トリップは、重いものを止める機械や、荷物を下ろす機械で、ほぼ必ず一度は出会う止まり方です。原因は「回生」と呼ばれる現象ですが、目に見えないので、何が起きているのかつかみにくいところです。

この記事では、回生を坂を下る電動アシスト自転車にたとえて、最初から最後まで自転車の話で説明します。上から順に読めば、最後は自分で対策を選び、計算で確かめられるように並べました。

結論|まず30秒でわかる答え

インバータの回生とは、止めるときや荷物を下ろすときに、機械の勢いでモーターが回されて発電機になり、その電気がインバータに戻ってくることです。坂を下る自転車が、こがなくても進んで発電できるのと同じです。戻った電気はインバータの中の小さな電気だめ(コンデンサ)にたまり、電圧が上がりすぎると過電圧トリップで止まります(安川電機 GA700 の200V級では約410V)。対策は、①ゆっくり止める(減速時間を延ばす)→ ②熱にして捨てる(ブレーキ抵抗)→ ③電源に返す(回生コンバータ)の順に、戻る電気の量と頻度で選びます。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

  1. そもそも「回生」って何?坂を下る自転車は発電できる
  2. 回生はどんなときに起きる?止めるとき・下ろすとき
    1. 1. 重いもの・速いものを止めるとき
    2. 2. 荷物を下ろすとき
    3. 3. 外から押される・引っぱられるとき
  3. なぜ電圧が上がって止まるの?一方通行の入口と小さな電池
  4. 見る数字:ふだんの電圧と、止まる電圧
    1. 計算1:ふだんの直流の電圧は何ボルト?限度まで、どれくらい余裕がある?
  5. 止まったら:まず「いつ出たか」で見る場所を決める
  6. 対策は3つ:ゆっくり下る・熱にして捨てる・電源に返す
    1. 対策1:減速時間を延ばす(ゆっくり下る)
    2. 対策2:ブレーキ抵抗を付ける(熱にして捨てる)
    3. 対策3:回生コンバータを付ける(電源に返す)
    4. どれを選ぶか:1回の量と、回数で決める
  7. 計算2:止めるときに戻ってくるエネルギーは?(½Jω²)
    1. 数字を入れて計算する:重いローラーを2秒で止める
    2. 電気だめ(コンデンサ)には、どれくらい入る?
  8. 計算3:%ED と平均の電力、荷物を下ろす機械の回生
    1. 荷物を下ろす機械:P = m × g × v
  9. 仕事で使うとき1:メーカーの表示と、回生を抑える機能
  10. 仕事で使うとき2:ブレーキ抵抗と回生コンバータの数字と注意
  11. 直したつもりで再発する思い込みと、測る順番
  12. よくある質問
  13. まとめ:回生は坂を下る自転車の発電。いつ出たかで切り分け、量と回数で対策を選ぶ
    1. 次に読むべき記事

そもそも「回生」って何?坂を下る自転車は発電できる

ひとことで言うと回生とは、機械の勢いでモーターが回されて発電機になり、電気がインバータに戻ってくることです。

ふだんのモーターは、インバータから電気をもらって回り、機械を動かします。電気 → 回る力、という向きです。ところが、ある場面では、この向きが逆になります。機械の側がモーターを回し、モーターが電気を作ってしまうのです。

たとえると

電動アシスト自転車を思い浮かべてください。上り坂では、ペダルをこぎ、モーターが電池の電気を使って助けてくれます。では下り坂ではどうでしょう。こがなくても、坂の力で車輪がどんどん回ります。一部の電動アシスト自転車や電気自動車は、このときモーターを発電機として使い、電池に電気を戻します。これが回生です。

工場のモーターでも、同じことが起きます。モーターは、電気を流せば回り、外から回されれば電気を作る、という両方の性質を持っています。自転車のライトの発電機(ダイナモ)が、車輪に回されて電気を作るのと同じしくみです。

この表の見方:左の自転車の話が、右の工場の話に当たります

自転車のたとえ本物の工場では
坂を上る(こいで電気を使う)力行(りっこう):インバータからモーターへ電気が流れる
坂を下る・ブレーキ(車輪に回されて発電)回生:モーターからインバータへ電気が戻る
すぐ満タンになる小さな電池インバータの中の直流の回路(コンデンサ)
電池があふれそうで止まる過電圧トリップ
ゆっくり下る/ブレーキで熱に/家に返す減速時間を延ばす/ブレーキ抵抗/回生コンバータ

ここはたとえと違うところですが、自転車の電池はたっぷり電気をためられるのに対し、インバータの中の電気だめはとても小さいのです。この違いが、過電圧トリップの原因になります(④で説明します)。

インバータの回生を、坂を上る自転車と下る自転車にたとえたイラスト

回生はどんなときに起きる?止めるとき・下ろすとき

ひとことで言うと「重いものを短い時間で止めるとき」と「荷物を下ろすとき」が代表です。

1. 重いもの・速いものを止めるとき

大きなローラーや、はずみ車のように重く回っているものは、たくさんの勢いを持っています。インバータが「止まれ」と速さを下げても、機械は勢いで回り続けようとし、モーターを外から回します。このときモーターが発電機になります。

たとえると

下り坂でブレーキをかけて止まるとき、自転車の勢いはどこかへ行かなければなりません。ふつうの自転車では、ブレーキが勢いを熱に変えています。電動アシスト自転車の回生では、勢いの一部が電気になって戻ります。勢いが大きいほど、短い時間で止めるほど、戻ってくる電気は多くなります。

2. 荷物を下ろすとき

クレーンや昇降機で荷物を下ろすときは、荷物の重さがモーターを回します。下ろしている間ずっと、モーターは発電機として回されます。まさに長い下り坂を下り続ける自転車です。

3. 外から押される・引っぱられるとき

ラインの別の機械に押される、巻き取りの張力で引っぱられる、といった場面でも、モーターが外から速く回されて回生が起きます。

つまり、回生は「機械の勢いや重さが、モーターを回そうとするとき」に起きます。インバータの使い方がまちがっているのではなく、物理として自然に起きることです。

回生が起きる工場の場面(重いものを止めるとき・荷物を下ろすとき)のイラスト

なぜ電圧が上がって止まるの?一方通行の入口と小さな電池

ひとことで言うと戻ってきた電気は電源に帰れず、インバータの中の小さな電気だめにたまって、電圧がどんどん上がるからです。

インバータの中は、ざっくり言うと3つの部屋に分かれています。①コンセントからの電気を、向きの変わらない電気(直流)に変える入口、②その電気をためる直流の回路(コンデンサという部品)、③好きな速さの波を作ってモーターへ送る出口です。

ふつうのインバータの入口は、電気を一方向にしか通さない部品(ダイオード)でできています。電源から中へは入れますが、中から電源へは戻せません。

たとえると

インバータの中の電気だめは、電動アシスト自転車の電池よりずっと小さい、コップくらいの電池だと思ってください。しかも、家のコンセントへ電気を返す線がありません。下り坂で発電した電気は、このコップにたまるしかありません。少し下っただけで、コップはすぐにいっぱいになります。

電気がたまるほど、直流の回路の電圧は上がります。電圧が高くなりすぎると、中の部品が壊れるおそれがあります。そこでインバータは、電圧が決められた限度を超えると、自分で出力を止めて身を守ります。これが過電圧トリップです。メーカーによって「OV」「ov」「E.OV3」などと表示されます。

インバータの中の3つの部屋のしくみは、同じ筆者が運営する電気のブログ shirasusolo.net のインバーターとはで、電気自動車の回生ブレーキは電気自動車の回生ブレーキの仕組みで図解しています。

回生の電気が電源に戻れずインバータの中にたまるしくみ

見る数字:ふだんの電圧と、止まる電圧

ひとことで言うと200V級なら、ふだん約283V の直流の電圧が、約410V(安川電機 GA700 の例)を超えると止まります。

計算1:ふだんの直流の電圧は何ボルト?限度まで、どれくらい余裕がある?

何のために計算するの?

電池(コンデンサ)が「どれくらいでいっぱいになるか」をつかむために、ふだんの電圧と止まる電圧の差を出します。差が小さいほど、少しの回生で止まります。

この式はどこから来たの?
  1. コンセントの交流の電気は、プラスとマイナスに揺れる波です。「200V」というのは、この波のならした値(実効値)です。
  2. 波の山のてっぺんの高さは、ならした値の√2倍(約1.41倍)です。これは、なめらかな波(正弦波)の形から決まる数です。
  3. インバータの入口は、波の山のてっぺん近くまでコンデンサに電気をためます。だから、ふだんの直流の電圧の目安は「√2 × 電源の電圧」です(負荷が軽いときの目安)。
計算例
計算例:200V級の場合(止まる電圧は安川電機 GA700 の資料の値)
ふだんの直流の電圧の目安(√2 = 1.414 を掛ける)
1.414 × 200 V = 283 V
止まる電圧(GA700 の200V級)
約 410 V
ふだんから限度までの余裕(引き算)
410 V − 283 V = 127 V
何倍まで上がると止まるか(割り算)
410 V ÷ 283 V = 1.45 倍
ふだんの約1.45倍まで電圧が上がると止まる。400V級なら、ふだん約566V・限度 約820V で、同じく約1.45倍
答えの意味

回生の電気でコップの水位(電圧)が約1.45倍になると、インバータは止まります。電源の電圧がふだんより高めの工場では、出発点が高いぶん、余裕はさらに小さくなります。減速時間が短いと、短い時間にたくさんの電気が戻ってきて、この余裕を一気に越えてしまいます。

この「水位が上がる」様子を、動く図で確かめましょう。減速時間を選ぶと、モーターから戻ってくる電気がコップ(電気だめ)にたまり、直流の電圧が上がっていく様子が見られます。

動かして確かめる

減速時間を選んで「スタート」を押すと、重いローラーを回しているモーターが 60Hz から止まるまで減速します。青い点は電源からモーターへ行く電気、オレンジの点は減速中にモーターから戻ってくる電気(回生)です。戻った電気がコップ(電気だめ)にたまり、水位=直流の電圧が上がる様子を見てください。

インバータの中 電源 交流 200V 入口 一方通行 × 電源へは戻れない 410V 283V 電気だめ(コンデンサ) 出口 運転中 モーター 重いローラー 直流の電圧:283 V モーターの速さ(Hz) 60 0 直流の電圧(V) 410 約410V:止まる電圧(安川電機 GA700 の200V級) 283 ふだん 約283V 時間 →

いまの様子:スタートを押すと、ここに説明が出ます。

動きは説明のための作り物です(電圧の上がり方と、どの減速時間で止まるかは例。実際は機械の重さ・速さ・コンデンサの大きさ・インバータとモーターの損失で決まります。283V・410V は本文の計算例の値)。

見てほしいのは、減速時間を短くするほど1秒あたりに戻る電気(オレンジの点)が増え、水位の上がり方が急になるところです。この例では1秒だと約410V に届いて止まり、3秒なら約376V で収まります。

減速時間が短いと回生で直流の電圧が上がり過電圧トリップになる例

止まったら:まず「いつ出たか」で見る場所を決める

ひとことで言うと減速中・下ろしている間・一定の速さのとき・止まっているとき、のどれで出たかで、疑うものが変わります。

過電圧で止まったら、リセットする前に、表示と「そのとき機械が何をしていたか」を書き留めます。三菱電機の FR-A800 では、加速中は E.OV1、定速中は E.OV2、減速・停止中は E.OV3 と、表示そのものが「いつ」を教えてくれます。

たとえると

自転車の電池があふれたのが「坂を下っていたとき」なのか「ブレーキをかけたとき」なのか「止まって置いていたとき」なのかで、原因はまったく違います。止まっていたのにあふれたなら、坂のせいではなく、充電器(電源)のほうを疑います。

実務の判断のコツ

過電圧トリップの切り分けで最初に確かめるのは、そのトリップが「機械が減速している・下がっている」ときに出たかどうかです。止まっているときや一定の速さで回っているときに出たなら、回生ではなく電源側の電圧の跳ね上がりや配線を疑う側に回ります。ここを分けないまま減速時間をいじると、効かない対策に時間を使ってしまうからです。

この表の見方:上の行から順に確かめます。左の列の「いつ出たか」が近い行を探してください

症状・いつ出るかまず疑う原因確かめる場所・測るもの直し方
減速中に出る減速時間が短く、戻る電気が多い(重い・速い機械)減速時間の設定、減速中の直流の電圧減速時間を延ばす、回生を抑える機能、ブレーキ抵抗
荷物を下ろす間に出る重さでモーターが回され、回生が続いている下ろす速さと時間ブレーキ抵抗の容量を見直す、回生コンバータ
一定の速さのとき、ときどき出る外から押される・引っぱられる、速さの揺れそのときの機械の動き押される原因をなくす、回生を抑える機能
加速の直後に出る急加速で行きすぎた速さを戻すときの回生加速時間・加速の終わりの設定加速時間を延ばす
止まっているときに出る電源の電圧が高い、電源側の電圧の跳ね上がり(サージ)受電の電圧、同じ電源の設備の動き電源電圧を合わせる、DC リアクトル(メーカーの資料の対策)
ブレーキ抵抗を付けたのに出る配線の誤り、設定で働いていない、容量不足抵抗の配線と設定(⑬)配線と設定を直す、容量を見直す
実務の判断のコツ

停止中や軽い負荷の定速中に過電圧が出るときは、同じ盤・同じ受電の設備で、そのとき何が入り切りしたかを聞きます。インバータの設定を変える前に、トリップの時刻と、ほかの設備の動き(コンデンサの切り替え・大きなモーターの起動)を並べると、インバータの外に原因があることが見えてきます。

安川電機の GA700 の資料では、同じ電源で進相コンデンサを入り切りすると入力の電圧が跳ね上がることがあるとされ、対策に DC リアクトルが挙がっています。出力側の地絡でも ov が出る例があるので、表に当てはまらないときは取扱説明書の「過電圧」の項目を全部読みます。

インバータの過電圧トリップを、いつ出たかで切り分ける流れ図

対策は3つ:ゆっくり下る・熱にして捨てる・電源に返す

ひとことで言うと減速時間を延ばす → ブレーキ抵抗 → 回生コンバータ、の順に、安くて簡単なものから検討します。
たとえると

坂を下る自転車で、小さな電池をあふれさせない方法は3つです。
① ゆっくり下る:ブレーキをじわっとかけ、少しずつ発電させる
② ブレーキで熱にして捨てる:余った勢いを、ブレーキの熱にして空気に逃がす
③ 家のコンセントに返す:作った電気を電線で家に返し、ほかの家電で使う

対策1:減速時間を延ばす(ゆっくり下る)

いちばん安く、部品も要りません。止めるまでの時間を長くすると、1秒あたりに戻ってくる電気が減り、電気だめがあふれにくくなります。ただし、1回の動作にかけられる時間(タクト)が延びるので、延ばしてよい時間を機械の担当と決めてから変えます。多くのインバータには、電圧が上がりそうになると自動で減速をゆるめる機能もあります(⑫で説明)。

対策2:ブレーキ抵抗を付ける(熱にして捨てる)

直流の回路に、電気を熱に変える部品(ブレーキ抵抗)をつなぎ、電圧が上がったら電気を流して熱にします。自転車のブレーキが勢いを熱に変えるのと同じです。安くて小さい代わりに、抵抗が熱くなります。

ブレーキ抵抗が何をしているかを、動く図で確かめましょう。止まってしまう1秒の減速のまま、ブレーキ抵抗の「なし」「あり」を切り替えて比べます。

動かして確かめる

減速時間は止まってしまう「1秒」のままで、ブレーキ抵抗の「なし」「あり」を切り替えて「スタート」を押してください。「あり」では、コップ(電気だめ)の水位がある高さを超えると、戻った電気(オレンジの点)が下のブレーキ抵抗へ流れ、熱になって捨てられる様子が見られます。

ブレーキ抵抗:
インバータの中 電源 交流 200V 入口 一方通行 410V 283V 電気だめ(コンデンサ) 出口 運転中 ブレーキ抵抗 コップの茶色の点線=抵抗に流し始める高さ(例) モーター 重いローラー 直流の電圧:283 V モーターの速さ(Hz) 60 0 直流の電圧(V) 410 約410V:止まる電圧(安川電機 GA700 の200V級) 283 ふだん 約283V 点線=前回の電圧(比べる用) 時間 →

いまの様子:スタートを押すと、ここに説明が出ます。

動きは説明のための作り物です(電圧の上がり方と、抵抗に流し始める高さは例。抵抗に流し始める電圧は機種で違います。283V・410V は本文の計算例の値)。

見てほしいのは、「あり」では電圧がある高さで頭打ちになり、410V まで上がらない代わりに、抵抗が温まっていくところです。戻った勢いは消えたのではなく、熱に変わっただけです。

対策3:回生コンバータを付ける(電源に返す)

戻ってきた電気を電源の側へ返す機器です。熱にしないので発熱が少なく、返した電気を工場のほかの機械が使うので電気代も減ります。その代わり、ブレーキ抵抗より高価です。

回生の3つの対策を、ゆっくり下る・ブレーキで熱に・家に返す自転車にたとえたイラスト

どれを選ぶか:1回の量と、回数で決める

どの対策にするかは、1回に戻る電気の量と、どれくらいの頻度で戻るかで決めます。頻度は %ED(使用率)という数字で表します。1回のくり返し(1サイクル)のうち、回生している時間の割合です。40秒に1回、2秒ずつ止める動きなら 2 ÷ 40 = 5%ED です。

この表の見方:上の行から順に検討します。上の行で済むなら、下の行の対策は要りません

条件選ぶ対策理由
タクトに余裕があり、減速時間を延ばせる減速時間を延ばす部品が要らない。いちばん安い
止まる時間が少しばらついてもよい回生を抑える機能設定だけでトリップを避けられる
短く止めたいが、回生はたまに(%ED が小さい)ブレーキ抵抗(取付型)安い・小さい
回生の頻度が中くらい(数%〜10%ED 程度)ブレーキ抵抗ユニット(別置き・熱の見張り付き)熱を逃がす余裕がある
荷物を下ろし続ける・回生が長い・頻度が高い回生コンバータ熱にせず電源に返すので、発熱と電気代の両方が減る
実務の判断のコツ

ブレーキ抵抗か回生コンバータかで迷ったら、「回生が止める瞬間だけか、続くか」で決めます。止める瞬間だけの回生は、ブレーキ抵抗で熱にしても量が知れています。荷を下ろし続ける・巻き戻し続けるような回生は、抵抗が大きく熱くなり、盤の冷却まで見直すことになるので、最初から電源に返す側を検討します。

では、「1回に戻る電気の量」はどうやって見積もるのでしょう。次の段で、式の出どころから計算します。

回生の大きさと頻度で対策を選ぶ図

計算2:止めるときに戻ってくるエネルギーは?(½Jω²)

ひとことで言うと戻る電気の量は、回っているものが持つ「勢いのエネルギー」½Jω² で見積もれます。
何のために計算するの?

ブレーキ抵抗で足りるのか、回生コンバータが要るのかを決めるには、1回止めるたびに戻ってくるエネルギーの量を知る必要があります。量がわかれば、電気だめにためられる量や、抵抗が出す熱と比べられます。

いきなり回転の式を出す前に、まっすぐ走る自転車の「勢いのエネルギー」から組み立てます。

この式はどこから来たの?
  1. エネルギー(仕事)= 力 × 動いた距離。重い荷物を押して運ぶほど、遠くまで押すほど、たくさんの仕事をしたことになります。これが出発点です。
  2. 止まっている自転車(重さ m)を、一定の力 F で t 秒押して、速さ v まで加速させるとします。物理の基本の式「力 = 重さ × 加速の速さ」より、加速の速さは v ÷ t なので、F = m × v ÷ t です。
  3. その間に進む距離は、速さが 0 から v までまっすぐ増えるので、平均の速さ(v ÷ 2)× 時間で、d = v × t ÷ 2 です。
  4. 仕事は F × d = (m × v ÷ t)×(v × t ÷ 2)。t が消えて、½ × m × v² が残ります。これが、速さ v で走るものが持つ運動エネルギーです。止めるときは、この分のエネルギーがどこかへ行きます。
  5. 回るもの(ローラーや車輪)は、場所によって速さが違います。中心から r の距離にある小さなかけら(重さ m)の速さは v = r × ω(ω は回る速さ)です。代入すると ½ × m × r² × ω²。
  6. かけら全部の「m × r²」を足し合わせたものを慣性モーメント J(回しにくさ・止めにくさ)と呼びます。よって回るものの勢いのエネルギーは E = ½ × J × ω² です。

この表の見方:式に出てくる文字を1つずつ説明します

記号意味(やさしく言うと)単位
E回っているものが持つ勢いのエネルギー(止めると戻ってくる量の最大)J(ジュール)
J慣性モーメント。回しにくさ・止めにくさ。重いほど、外側に重さがあるほど大きいkg·m²
ω回る速さ(角速度)。1秒に何ラジアン回るかrad/s
N回る速さ(1分に何回転するか)。ω = 2π × N ÷ 60min⁻¹

ω と N の関係も確かめます。1回転は 2π ラジアン(円1周の角度)です。1分に N 回転なら、1秒には N ÷ 60 回転なので、ω = 2π × N ÷ 60 です。単位は kg·m² ×(rad/s)² = kg·m²/s² で、これは J(ジュール)と同じです。

運動エネルギーの式から回転のエネルギーの式を組み立てる流れ

数字を入れて計算する:重いローラーを2秒で止める

計算例
計算例1:慣性の大きいローラーを2秒で止める(数値は例。損失は引かない=安全側)
条件:モーターの軸に換算した慣性モーメント J = 0.4 kg·m²、回る速さ N = 1,750 min⁻¹ から 2 s で止める
回る速さを ω に直す(2π × N ÷ 60)
ω = 2 × 3.1416 × 1,750 ÷ 60 = 183.3 rad/s
ω を2乗する
183.3² = 33,600
勢いのエネルギー(½ × J × ω²)
E = 0.5 × 0.4 kg·m² × 33,600 = 6,720 J
止めている間の平均の電力(エネルギー ÷ 時間。電力は1秒あたりのエネルギー)
6,720 J ÷ 2 s = 3,360 W
止め始めの電力(一定の割合で止めると、電力は最初が最大で0まで直線で下がるので、平均の2倍)
3,360 W × 2 = 6,720 W
1回止めるたびに最大 6,720 J が戻り、止め始めには約 6.7 kW の勢いで流れこむ

電気だめ(コンデンサ)には、どれくらい入る?

比べるために、インバータの中の電気だめに入る量も計算してみます。コンデンサにたまるエネルギーは ½ × C × V²(C は電気をためる大きさ、V は電圧)です。運動エネルギーの ½mv² とよく似た形です。

計算例
計算例:2,000μF のコンデンサが、283V から 410V まで上がる間に入る量(C は説明のための例。実際の値は機種で違う)
410V のときにたまっている量(½ × C × V²。2,000μF = 0.002 F)
0.5 × 0.002 F × 410² = 0.5 × 0.002 × 168,100 = 168.1 J
283V のときにたまっている量
0.5 × 0.002 F × 283² = 0.5 × 0.002 × 80,089 = 80.1 J
あふれるまでに入る量(引き算)
168.1 J − 80.1 J = 88 J
戻るエネルギーと比べる(割り算)
6,720 J ÷ 88 J = 76 倍
戻ってくる勢いは、電気だめに入る量の約76倍。逃がし口がなければ、止め始めてすぐにあふれる
答えの意味

重いローラーを止めるときの勢いは、インバータの中の電気だめにとっては、コップにバケツの水を注ぐようなものです(数字は例で、実際のコンデンサの大きさは機種で違います)。だから、減速時間を延ばして注ぐ勢いを弱めるか、ブレーキ抵抗や回生コンバータで逃がし口を作る必要があります。桁の確かめ方としては、「J と回転数の2乗に比例する」ので、回転数が2倍ならエネルギーは4倍、と覚えておくと見当がつきます。

減速中の回生電力と、戻るエネルギーがコンデンサの容量よりずっと大きいことを示すグラフ

計算3:%ED と平均の電力、荷物を下ろす機械の回生

ひとことで言うとブレーキ抵抗の熱を決めるのは、1サイクルを通した平均の電力と %ED です。
何のために計算するの?

ブレーキ抵抗には「%ED」と「1回の最大の時間」の使える範囲が決められています。自分の機械の回生がその範囲に入るかを確かめるために、%ED と平均の電力を出します。

この式はどこから来たの?
  1. %ED = 回生している時間 ÷ 1サイクルの時間 × 100。1日の中で坂を下っている時間の割合を出すのと同じ、ふつうの割合の計算です。
  2. 抵抗が熱くなるかどうかは、1サイクルの中でならした熱の量で決まります。だから平均の電力 = 1回のエネルギー ÷ 1サイクルの時間です。
計算例
計算例1の続き:40秒に1回、2秒で止める(数値は例)
使用率(回生 2 s ÷ 1サイクル 40 s × 100)
2 s ÷ 40 s × 100 = 5 %ED
1サイクルの平均の電力(6,720 J ÷ 40 s)
6,720 J ÷ 40 s = 168 W
もし減速時間を 4 s に延ばしたら:止めている間の平均の電力
6,720 J ÷ 4 s = 1,680 W(半分になる)
そのときの使用率
4 s ÷ 40 s × 100 = 10 %ED(2倍になる)
5%ED なので、3%ED の取付型の抵抗では足りず、10%ED のユニット級を検討する。減速を延ばすと瞬間の電力は下がるが、%ED は上がる

ここがよく混乱するところです。過電圧トリップを止めるのに効くのは瞬間の電力(1秒あたりに流れこむ量)を下げること、抵抗の温度を決めるのは1サイクルの平均の電力です。どちらの数字で判断しているかを分けて考えます。

荷物を下ろす機械:P = m × g × v

昇降機で荷物を下ろす場合は、止めるときだけでなく、下ろしている間ずっと回生します。このときの電力は、出発点の「仕事 = 力 × 距離」から出せます。荷物にかかる力は重さの力(m × g。g は重力の強さ 9.8 m/s²)で、1秒に進む距離は下ろす速さ v です。だから1秒あたりの仕事(電力)は P = m × g × v です。

計算例
計算例2:300 kg の荷物を 0.4 m/s で6秒下ろす(30秒に1回。おもりなし。数値は例)
下ろしている間の回生電力(m × g × v)
300 kg × 9.8 m/s² × 0.4 m/s = 1,176 W
1回の下降で戻るエネルギー(電力 × 時間)
1,176 W × 6 s = 7,056 J
使用率
6 s ÷ 30 s × 100 = 20 %ED
1日8時間動かすときの回数
8 h × 3,600 s ÷ 30 s = 960 回
1日に熱として捨てるエネルギー(1 kWh = 3,600,000 J)
7,056 J × 960 = 6,773,760 J ≒ 1.9 kWh
20%ED は、取付型(3%ED)もユニット(10%ED)の標準の使用率も超える。回生が長く続くので、容量を選び直した抵抗か、回生コンバータを検討する
答えの意味

長い下り坂を毎日960回下っている自転車です。ブレーキで熱にして捨てると、毎日 約1.9kWh が熱になります。これだけ続くなら、電源に返す回生コンバータが候補に上がります。抵抗値とワット数の選び方は、ブレーキ抵抗の容量計算の記事で扱います(公開しだいリンクします)。

使用率 %ED の考え方と2つの計算例

仕事で使うとき1:メーカーの表示と、回生を抑える機能

ひとことで言うと表示の名前と、自動で減速をゆるめる機能の名前は社ごとに違います。公式の資料で確かめた2社を並べます。

この表の見方:ほかの社は、取扱説明書の「保護機能」「ストール防止」「回生回避」の章を見てください

メーカー・シリーズ表示・機能の名前はたらき
三菱電機 FR-A800E.OV1/E.OV2/E.OV3加速中/定速中/減速・停止中の回生過電圧
三菱電機 FR-A800回生回避機能(Pr.882〜Pr.886)回生による過電圧を避ける機能(異常表示の対策に記載)
安川電機 GA700ov(200V級 約410V・400V級 約820V)直流の電圧が検出レベルを超えると止まる
安川電機 GA700減速中ストール防止(L3-04)初期値の「汎用」では、直流の電圧がレベルを超えると減速を止める
安川電機 GA700過電圧抑制(L3-11)電圧が上がると回生のトルクを下げ、周波数を上げる(初期値は無効)
注意|ここで間違えやすい

回生を抑える機能は、トリップの代わりに「減速が設定より遅くなる」「速さが少し上がる」ことで電圧を逃がします。止まる位置や時間が決まっている機械では、止まるまでの時間がばらつくので、使ってよいかを機械の動きで確かめます。

減速中に過電圧ではなく過電流が出る場合は、原因と対策が違います。過電流トリップの切り分けは別の記事で説明します(公開しだいリンクします)。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

仕事で使うとき2:ブレーキ抵抗と回生コンバータの数字と注意

ひとことで言うとブレーキ抵抗には使える %ED と1回の時間の上限があり、付けただけでは働かないこともあります。

安川電機の GA500 用のオプションを例にすると、取付型の制動抵抗器は 3%ED・最大10秒、制動抵抗器ユニットは 10%ED・最大10秒で、ユニットには熱の見張り(サーマルリレー)が入っています。どちらも「定トルク負荷を減速して止める場合」の値で、昇降のように回生が大きい用途では、標準の組み合わせでは容量が足りないおそれがあると注意書きがあります。

たとえると

ブレーキ抵抗は、自転車のブレーキと同じで、勢いを熱にして捨てる部品です。長い下り坂でブレーキをかけ続けると、ブレーキが熱くなりますね。だから、抵抗の置き場所と熱の見張りが大事になります。

この表の見方:左の列を上から確かめます。端子名と設定の番号は機種で違うので、最後は取扱説明書で確かめてください

確かめることなぜメーカーの資料の例
回生を抑える機能の設定機能が先に働くと、抵抗が使われない安川電機 GA700:制動抵抗を付けるときは L3-04 を 0 か 3
抵抗の熱の見張りと停止のしかけ抵抗が熱くなりすぎたら電源を切る安川電機 GA500:取付型は L8-01 を有効にし、異常の接点で電源側を切る
抵抗値小さすぎる抵抗はブレーキの回路を壊す接続できる抵抗値以上で選ぶ(安川電機)
置き場所抵抗はかなり熱くなる温度ヒューズ付きは、切れたら本体ごと交換(安川電機)
ブレーキの回路の有無内蔵していない機種は別にブレーキユニットが要る機種と容量で違う(カタログのオプションの表)

回生コンバータは、戻ってきた電気を電源に返す機器です。安川電機の資料では、制動抵抗器の置き換えとして使う電源回生ユニット(R1000)と、力率の改善や高調波の抑制も兼ね、複数台をつなげる電源回生コンバータ(D1000)が紹介されています。三菱電機の資料でも、過電圧の対策に FR-XC・FR-CV が挙がっています。

目安

安川電機のメールマガジンでは、10t の天井クレーンで抵抗の方式から電源回生ユニットに替えた場合、年間の電気代が約11万円減り、54%の省エネになるという試算が紹介されています(電気の単価や稼働時間は書かれていないので、自分の設備では計算し直します)。

注意|ここで間違えやすい

ブレーキ抵抗は運転中も止めた直後も熱くなっています。周りに燃えやすいものや配線を寄せず、点検は温度が下がってから行います。主回路の配線を直すときは、電源を切り、充電ランプが消えたことと、直流の端子の間の電圧が下がったことをテスターで確かめてから作業します。

出典

情報の確認時点:2026年10月。機種ごとの値は、お使いの機種の取扱説明書で確かめてください。

ブレーキ抵抗は自転車のブレーキと同じく勢いを熱にして捨てる部品であることを示すイラスト

直したつもりで再発する思い込みと、測る順番

ひとことで言うと対策の前と後で、同じ運転の直流の電圧を見比べると、効いたかどうかが数字でわかります。

この表の見方:左の列に心当たりがあれば、右の列を先にやります

思い込み残る原因どうするか
減速時間を延ばしたから直った下ろす動きや押される回生は、減速時間では減らないいつ出ていたかを確かめ直す
ブレーキ抵抗を付けたから大丈夫回生を抑える機能の設定で、抵抗が使われていない⑬の表の1行目の設定を見る
抵抗が熱くないから容量は足りている抵抗が働いていない(配線・設定・回路)減速中の直流の電圧をモニタで見る
インバータが壊れたから交換電源側の跳ね上がりや高い電源電圧が残っている止まっているときにも出るなら、電源を先に調べる
STEP 1

モニタで直流の電圧を表示させる。多くの機種は操作パネルで直流の電圧を表示できます(取扱説明書のモニタの章)。

STEP 2

止めたまま、ふだんの電圧を控える。200V級なら 280V 前後が目安です(計算1)。高めなら電源の電圧が高い側を疑います。

STEP 3

ふだんの運転で、減速中・下降中の一番高い電圧を見る。止まる電圧(GA700 の200V級なら約410V)にどれだけ近いかを見ます。

STEP 4

対策を1つずつ入れて、同じ運転で比べる。減速時間・機能・抵抗を一度に変えず、1つずつ変えて効き方を確かめます。

よくある質問

Q. インバータの回生とは何ですか?

A. 止めるときや下ろすときに機械の勢いでモーターが発電機になり、電気がインバータに戻ることです。戻りすぎると過電圧で止まります。

Q. インバータの過電圧トリップは減速時間を延ばせば直りますか?

A. 減速中に出る場合は効きます。荷物を下ろす間や電源の跳ね上がりで出る場合は効かないので、いつ出たかを先に確かめます。

Q. ブレーキ抵抗と回生コンバータはどちらがいいですか?

A. 回生が止める瞬間だけならブレーキ抵抗、下ろし続けるなど回生が長く続くなら回生コンバータを検討します。

Q. %EDとは何ですか?

A. くり返し運転の1サイクルのうち、回生してブレーキが働いている時間の割合です。40秒のうち2秒なら5%EDです。

Q. 止まっているのにインバータが過電圧で止まるのはなぜですか?

A. 電源の電圧が高いか、進相コンデンサの入り切りなどで電源側の電圧が跳ね上がった可能性があります。電源側を調べます。

まとめ:回生は坂を下る自転車の発電。いつ出たかで切り分け、量と回数で対策を選ぶ

POINT
  • 回生は、機械の勢いや重さでモーターが回されて発電機になり、電気がインバータに戻ること
  • インバータの中の電気だめは小さく、電源に返す道もないので、すぐあふれて過電圧トリップになる
  • 減速中なら減速時間と機能、下ろす間は回生が続く、止まっているときなら電源を疑う
  • 対策は、減速時間 → ブレーキ抵抗 → 回生コンバータの順。戻る量(½Jω²・mgv)と %ED で選ぶ
  • ブレーキ抵抗は設定・熱の見張り・抵抗値・置き場所を確かめてから使う

ブレーキ抵抗の抵抗値とワット数を決めるときは、計算2・3の数字を使って容量を選びます。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

PLC・サーボ・インバーターを実務で扱ってきた電気・制御の設計者です。制御の記事は、選び方・設定の順番・止まったときの切り分けを、実務の判断のしかたから書いています。機械(材料・機械要素・図面)の記事は本職ではないため、JIS とメーカーの技術資料を調べてまとめ、出典を示しています。

次に読むべき記事

回生の対策がわかったら、ブレーキ抵抗の容量計算と、加速中の過電流の切り分けも確かめておきましょう(記事は公開しだい、ここに並べます)。

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